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 その後、ミーナが目覚めたのは木漏れ日の中だった。


 体が揺れていて、顔を上げると誰かにおんぶされていることに気づく。


 目の前にある栗色の髪に安堵して、ミーナは口を開いた。


「ネルお姉ちゃん?」


「あら、ようやく起きたのね」


 擦り傷が痛んで視線を下げれば、ネルも自分もよそ行き用の服に着替えていた。ネルは自分をおぶりながら、村から少し出た獣道を歩いているらしい。


 ネルお姉ちゃんは、たった二人でどこに行こうとしているのだろう。


「……ごめんね」


 なぜ謝られているのかと思った時、血まみれの光景が浮かんだ。


「すごく、怖い夢を見たの」


 口をついて出たその言葉に、ネルは歩みを止めた。


 ミーナを背中から下ろし、抱きしめてくれた。


「もう、大丈夫だからね」


 何も考えられないまま、嗚咽と共に涙が溢れた。


 つまり、血にまみれたあの光景は――


「私、もうミーナを泣かせないよ」


 顔を上げると、ネルは力強い瞳をミーナに向けていた。


「もう誰も信じない。もう誰にも頼らない。ミーナが泣かないで済む世界を、私の力で創って見せる。だから、安心してね。私には、その力があるんだから」


 ネルの真意は分からなかったけれど、ミーナは安堵に包まれた。


 ミーナはいつの間にか泣き疲れて、また眠ってしまった。

 

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