148


「な、なんですって!?」


 アリシアが改めてタルサを睨みつけるが、


「良いか?」


 タルサは笑顔でそれを受け流して続ける。


「この場におる者に、妾たちにとって最も大切なことを伝えるのじゃが――悠久の魔女殿は、もうこの世にはおらぬ。これからは妾たちが考え行動し、この国のために舵を切る必要がある」


 タルサは全員を見渡し、両手を広げた。


「これから、妾たちでこの国の行く末を決めるが――妾たちは同じ権限を持つ仲間となる。すでに妾たちには〝未来視〟が無く、悠久の魔女殿とは違い、選択を間違えることもあるじゃろう。しかし、妾はその判断を全てお主様たちに任せる」


 静かな室内で、全員の視線がタルサに集まっている。


「妾は全てを知ることができる願いを持つ故に、お主たちを監視することは容易いが――この場には悠久の魔女殿を裏切る不届き者は一人もおらぬ。この国を想った行動であれば、妾はどこまでも寛大じゃ。逆に妾が知ることで伝達不備が起こらぬ故――間違った選択をした時の免罪符にもなろう」


 タルサは俺を横目に見て、楽しそうに笑う。


「全て、お主様たちの好きなようにやるが良い。しかし、お主様たちの一挙手一投足が、この国の雌雄を決すると肝に銘じよ。妾は悠久の魔女殿のように優しくは無いぞ? この国のために苦しむがいい。だが、今こそが悠久の魔女殿への信仰心を見せる時であり、お主様たちのこの国を想う気持ちこそが――悠久の魔女殿への最大の手向けとなる!」


 タルサは開いた腕を組み、ふんぞり返る。


 大きな胸が腕に乗って主張していて――まるでタルサの自信の大きさを表しているかの様だ。


 その様子に感化されたのか、アリシアが立ち上がり笑みを浮かべた。


「こうしちゃいられないわっ!」


 アリシアはつかつかと広間の扉へと歩いて行く。


「……まだ軍事的な決め事があるが、事後報告でも構わぬか?」


「ええ。そちら方面の問題は全てあなたたちに任せましょう」


 タルサの問いに、アリシアは笑顔で答える。


「私たち信者の力を――あなたたちに魅せつけてあげるんだから!」


 アリシアは笑い声も軽やかに、一人先に屋敷を飛び出していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る