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 アリシアは赤い前髪をかき上げ、小さく息を吐いた。


「小人族はこの世界において――圧倒的に劣等種なのは有名な事実よ。エルフのような魔力もなければ、獣人やリザードマン、ドラゴンなんかの種族に立ち向かえる腕力もない。多少頭が良くても、そんなものは人間の下位互換に過ぎなくて、私たち小人族の優れている場所なんて寿命が長いことぐらいだわ。そんな私たちに残された生きる道なんてのは……限られてる」


 アリシアは紅茶を一口飲み、言葉を続けた。


「絶滅寸前の私たちは――愛玩動物ぐらいの価値しか無くて、この世界では未だに多くの小人族が辛酸を舐めさせられている。そんな私の現実を変えてくれた人。それが悠久の魔女様よ。悠久の魔女様は私たちの部族に自由と希望を与えてくれた。だから、私たちは命に代えても、悠久の魔女様のために祈り続けるの。私はこの仕事に誇りをもっていて、私が信者をまとめ上げ、悠久の魔女様にお仕えしているのはそのため。わかった?」


 アリシアはもう〝この話は終わりだ〟と言外に示すと、腕を組んで口を噤んだ。


 タルサはそれを見つめ、アリシアの言葉をなぞるように口を開く。


「アリシア殿が持つ悠久の魔女様への信仰心は本物であり、この国を想う気持ちは人一倍じゃ。さらにアリシア殿は、エターナル大教会の主教という肩書まである。これ以上の人選はなかろう? ミーナ殿にシュウ様よ。アリシア殿は合格で良いじゃろうか?」


 俺とミーナは顔を見合わせたが、異論なんて欠片もない。


 アリシアは俺なんかよりも、遥かにこの国のために動いてくれるだろう。


 俺たちの様子に、アリシアはとりあえず満足したらしい。


 アリシアは表情を緩め、タルサをまっすぐに見つめ直した。


「合格が何かわかんないけど、悠久の魔女様の大切な情報っていうのを、早く聞かせなさい」


 その言葉に、ロウも煙草を灰皿へ押し付ける。


 ようやく本題が来たことを、感じ取ってくれたらしい。


「一度しか言わぬから、よく聞くが良い」


 タルサその声は、その大きさとは裏腹に、静かな部屋に響き渡った。




「先日、悠久の魔女殿がお亡くなりになられた」

 


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