第9話 王と王




「ほっほっほ、よく来たの」



 階段を上りきるや、ルポポ王の高らかな笑い声が謁見の間に響き渡る。


 城下町の家よりかは大きめの部屋にルポポ王と鎧に身をまとった兵士が5人。どうやら城下町の人が集まって歓迎、というわけではなさそうだ。むしろ、普段はいないはずの兵士が傍に待機していることからして魔王に対する警戒心があるのは確かだろう。



「ルポポ王、本日はお時間を作っていただきありがとうございます」



「勇者勇者、このおじじが勇者の言う王なのか?」



「馬鹿っ、ルポポ王になんてことを……」



 魔王の予想だにしない不意打ちに思わずルポポ王の顔色を窺う。

 普段から笑っているせいかあまりルポポ王の表情というのが分からないが、どうやら怒ってはいないようだ。



「も……申しわ――」



「なに、気にするでない勇者よ」



 頭を下げようとする俺をルポポ王が玉座に座ったまま抑止する。

 60歳という割には少し若く、鼻下に伸びた白いチョビ髭がよく似合う。いつも笑っているからか、少し垂れた目が優しさを一層醸し出す。



「さて勇者よ、そちの可愛らしいのが魔王ということでよろしいのじゃな?」



「はい」



「ほほう……聞いてはいたが、まさか魔王がこんな子供であったとは」



「馬鹿者ッ!ライラはこれでも200ねンンン――ッ!!」



 ルポポ王の言葉に反応する魔王。

 俺の隣で大きな口を開いてルポポ王を指さそうとする魔王を咄嗟に抱き寄せ、華麗に動くその口を掌で覆う。



「アハハ……いまちょっと幻聴が……」



「ぷはっ!急に何をするのだッ」



 ジタバタともがき、俺の手を引き剥がした魔王が鬼のような形相で睨む。

 そんな魔王の腕をつかみ、ルポポ王には聞こえない程度の声量で魔王との会話を続けた。



「バカ!相手はルポポ王だぞ?」



「だから何だというのだッ」



「なんだ、というのはない。ただ、相手は人間の王様だ。折角仲良くなるチャンスなのに嫌われたら元も子もないだろ」



「むぅ……」



 魔王の顔が不機嫌そうに曇っていく。とてもわかりやすい。




 魔王は子ども扱いされることが何よりも嫌いだ。

 勿論、周りから見た魔王というのは『子供』という言葉が一番お似合いなのだろう。それに関して異論はない。しかし残念なことに、魔王は自分自身のことを子供であると自覚していないらしい。

 過去に一度、そんな魔王をバカにして天使のお迎えが来たやつもいるくらいだ。



「ほっほ、元気があって何よりじゃ」



 少し不貞腐れた魔王を見たルポポ王が高らかに笑った。昔から変わらない、孫を見るような優しそうな笑いだ。



「申し訳ありません、ルポポ王。魔王もまだあまり人間には慣れてなくて……」



「気にせんでもよい。勇者も小さいころはこれくらいヤンチャだったもんじゃ、慣れておる」



 ルポポ王が魔王から目線を外し、その後ろにいるゴブリンを不思議そうな顔で見つめた。



「して、そちの緑のは……」



「あ、自分ゴブリンッス。お会いできて光栄ス、ルポポ王さん」



「ほほう、ゴブリンとな!よもやこの目で上級魔物を見れるとは」



 ルポポ王はフンスッと大きな鼻息を立て、少し興奮した様子で大きく口を開けた。そして何か言葉を発しようとした刹那、1階から謁見の間へと誰かがコツリコツリと足音と共に階段を上ってきた。




 身長はそれほど高くはない。女性といっても納得できるくらいではあるが、頭から足まで大きな布で姿を隠しているせいでその素性は分からない。男なのか女なのか、大人なのか子供なのか、そもそも人間なのかすらも分からない。

 ただ、一つ言えることは、俺がこの町に住んでいた頃はいなかったということだ。


 ルポポ王の開きかけた口が止まる。が、敵ではないようで。兵士たちに動く気配はない。

 布で覆われた人は魔王にもゴブリンにも目をくれず、一直線にルポポ王の元へと歩いていった。ほんの数秒、ルポポ王の耳元で立ち止まったそのわずかな時間で何を伝えたのかはわからないが、その言葉にルポポ王の口元がほんの少しだけ緩んだ。


 用を終えた布で覆われた人はまた1階へと続く階段へと歩いていく。顔は……やはり見えない。

 それどころか視線すら合わせない。まるで興味がないのか、この場に魔王もゴブリンもいないような、そんな振る舞いだ。



「勇者よ、急ですまんがワシは少々魔王と話がしたい。おぬしもこの町の者とは長いことあってないじゃろう、その間町の者に声をかけてきてはどうじゃ」



 布で覆われた人の言葉が関係あるのか、先ほどまでゴブリンに興味を示していたルポポ王が一瞬にして話題を変えた。ルポポ王に限って何かを企んでいるというのはないだろうが、少しばかり気にならないことはない。

 と言っても、俺がここで気にしたところでどうこうなる問題でもないし、そもそも魔王の強さは俺が一番知っている。俺が心配するようなことではないだろう。



「分かりました。ではしばしの間、城下町の者たちにゴブリンを紹介してくることにします」



「うむ。では後程使いの者を送らせよう」



 そう言ってルポポ王は満足そうに頷いた。



「じゃあ魔王、また後でな」



「んー」



 と、魔王がいつも通りの返事をする。緊張してる様子はない、大丈夫そうだ。



「じゃあゴブリン、俺らは城下町の方に行くか」



 ゴブリンは『了解ッス』と頷く。その顔は少しの不安を浮かべていた。

 そんなゴブリンを連れて、俺は謁見の間を跡にした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます