第5話 GAMIE or FRIENDIE




「ん?」



 魔王と顔を見合わす。

 依然にぱにぱと笑ったままの魔王。その顔に微塵の不安も疑いの心もなく、純真極まりないまっすぐな瞳が俺を見透かす。



「ラ……ライラ様、なぜ急にそんな……」



「あのな、勇者が持ってきたゲームで魔王が人間と仲良くなって一緒に暮らしてたのだっ」



 心配そうな表情を浮かべたゴブリンに対し、魔王が喜々と説明する。

 そういえば戦士にゲームを借りたとき、『このゲームは感動する』なんて言っていたがこういうことだったのか。なんて二人の様子を眺めながら一人納得する。



「でもそれはゲームの中の話であって……」



「ゴブリンは人間と仲良くなりたくないのか?」



「それは……仲良くなりたいスけど」



 何の疑いもなく尋ねる魔王に困った様子で、ゴブリンは助けてと言わんばかりに俺に視線を向けた。

 勿論、俺に助けを求められたところでその答えは出ない。それは俺がただの魔王の友達であり、人間だからだ。ゴブリンほど魔王のことを知っているわけでもなければ、魔王ほど魔物たちのことを知っているわけでもない。要は、人間である俺に決めていいことではないということだ。



「魔王のことを一番知ってるのはゴブリンだし、ゴブリンはどうしたいんだ?」



「自分は……」



 魔王を一目見て、困った様子のゴブリンが一層顔をしかめる。



「ゴブリンは、どうしてやりたいんだ?」



「――ッ」



 心は決まっているが、まだその覚悟ができていないゴブリンがギュッと目を閉じる。




 不安。




 恐怖。




 誰しも新たなことを始めるときはそんな感情が浮かぶ。それも今までいがみ合ってきた人間というのならば尚更だろう。

 だが、いつかはその壁を乗り越えないといけない時がある。


 魔王を幸せにしてやりたい。ゴブリンは確かにそう言った。

 その言葉を心から思っているのも知っているし、だからこそ、この状況に不安を感じているのだろう。だがもし、その不安に飲み込まれて魔王の言葉に頷けないのなら、その背中を押してやるのもきっと勇者としての役目だ。



「俺はいいんじゃないかと思ってる」



「勇者さん……」



 おもむろにゴブリンの顔が上がった。



「魔王が人間のことを好きならいつまでもいがみ合っているより、それを素直に伝えた方が絶対いいに決まってる。実際俺はこうして魔王とも、ゴブリンとも仲良くなれた。きっと今の魔王なら絶対に人間と仲良くなれると俺は思う」



「さすが勇者ッ!よくわかってるのだ」



 ニッと笑った拍子に、尖った小さな牙が魔王の口元から少しだけ姿を現す。

 さらに欲を言えば、これを機に魔王が堕落した生活から抜け出してくれれば尚良いんだが……



「そっスね」



 ゴブリンが小さく呟いた。



「そうッスよね!勇者さんの言う通りッス。自分、ライラ様を幸せにするってイリス様と約束したっス。ライラ様が人間と友達になりたいっていうなら、自分はそれを全力で手伝うだけッスよ!」



 覚悟を決めたゴブリンが残っていたコーヒーを一気に飲み干し、タンッとコーヒーカップ勢いよく机に叩き置いた。

 魔王に負けないくらいに清々しい表情。魔物なんて言葉が似合わないくらいに、魔物たちは案外人間っぽい。



「問題はどうやって人間に近づくかなんスけど」



 チラッとゴブリンが俺の方を見る。



「心配するな。ゴブリンの許可が出たのなら俺も全力で手伝おう」



「さすが勇者さんッス」



 魔王に負けないくらいにゴブリンが満面の笑みをこぼした。それはもう嬉しそうな。



「勇者勇者、ライラたちはどうやって人間と友達になるのだ?」



「うーん、そうだな……」



 俺の元を離れ、ゴブリンの膝にチョコンと座った魔王が尋ねる。



「最初から世界中の人と、ってのは多分無理だろうし、小さなところからっていうのはどうだろう」



「と言いますと?」



 ゴブリンが相槌を打つ。



「東の大陸にルポポ城ってのがある。俺が生まれ育った町だ。」



「へー」



「もともと東の大陸は人間を襲うような魔物もいない。だから魔物に対する危機意識というのは薄い」



「じゃあ友達になるにはもってこいって訳ッスね」



「ああ。それにルポポは俺がずっと過ごしてきた町だ。町の人もルポポ王もよく知ってるし、話が通せる分ほかの場所よりもうまくいくと思うぞ」



「さすがッス!」



 ゴブリンが笑う。

 当の魔王は難しい話にいまいちピンと来ていない様子で、ゴブリンの笑顔を見て小さく笑った。まぁこの辺りは俺とゴブリンで話を進めて、魔王は人間と仲良くなることを考えてくれたらいい。やりたいことだけをやる、子供の特権というやつだ。



「じゃあとりあえず俺は一度ルポポ王に話をつけてくる。俺の故郷と言っても、いきなり魔王が来たら流石にルポポ王も驚かないわけがないからな」



「よろしくお願いするッス」



「ああ。ということで魔王、悪いが新しいゲームは次来るまでお預けってことで」



「わかったのだッ」



 魔王が意気揚々と返事する。駄々をこねるかと思っていたが、今の魔王からしたらゲームよりも人間と友達になる方が楽しみなのかもしれない。



「じゃあゴブリン、魔王、また数日後にいい報告を持ってくる」




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