第2話 勇者と魔王




 初めて魔王と戦ってからもう1年くらいだろうか。

 歩くだけでHPを削られていた禍々しい魔王城もいつの間にか見慣れてしまった。


 クッションに寝転がっている女の子、もとい魔王ライラ。

 人間で言うと10歳くらいの可愛らしさが溢れ出る女の子だ。ただまぁ、金色に輝く長い髪、少しキツめな目と尖った歯、豪華な服に髪飾りなどなど、その辺りは少し悪魔っぽかったりする。

 本人曰く、既に200年近く生きてはいるらしいが、それでも魔王の寿命から考えるとまだまだ浅いらしい。



「なぁ魔王、そのゲーム面白いか?」



「まぁまぁなのだ」



 かれこれ10時間くらい同じ姿勢でゲームに熱中する魔王が答える。

 いまいち冴えない返事ではあるものの、言葉と態度が一致しないのは指摘しないでおこう。



「なぁ魔王、もう世界征服はしないのか?」



 ふと、そんな言葉を口走ってしまう。


 勿論、俺だって魔王に世界征服をして欲しいわけではないし、俺と魔王が手を組んだ事実は一切ない。

 ただ、俺が勇者である以上、魔王がずっとこんな生活をしていたら何にもやることがないわけで……。


 なんて自分自身に弁明をしてみるが、当の魔王は『んー』と気の抜けた返事を一つするだけである。



「なぁ魔お――」



「何度も言ってるが、別にライラは世界が欲しいわけではない。なのになぜ勇者はライラをそんなに悪者にしたがるのだッ!」


 コントローラーをその場に置いた魔王が体を起こし、クッションの上に座って俺を睨んだ。距離的におよそ3メートル弱。魔王の無言の眼光が俺の精神にジワリジワリと傷をつけていく。

 喧嘩というわけではないし、魔王も傷つけるつもりはないのだろう。当然、俺も言い合いになったからといって戦おうなんて気は微塵も起こらない。



「ゆ――」



「悪い。そんなつもり言ったわけじゃない」



 偶然にも言葉が被る。

 が、何かを言いかけた魔王は俺の言葉を聞いてすぐにその溢れ出た言葉を閉じ込め、ジッと俺を見つめた。



「ふ、ふんっ!分かればいいのだッ」



 フンスッと鼻から小さく息を吐き、魔王が元の姿勢に戻ってゲームへと意識を戻した。




 魔王なんて肩書きがあるライラだが、実際に話してみると人間が想像しているような『悪』というイメージとは程遠い。そもそも怒ることも少なく、どちらかといえば何にでも笑う、ホントに人間の子供のように無邪気な女の子だ。

 俺と魔王の友達みたいな関係が始まってかれこれ1年。仲がいいといえばちょっと首をかしげてしまうが、まぁ悪くはないだろう。


 勿論、いつもいい感じかと聞かれればそういうわけではない。さっきみたいなすれ違いもたびたび起こるし、小さな言い合いだってする。

 そんな時、俺と魔王は似てるのか、お互い何か言おうとするときは一呼吸おいて言葉を発する。だからさっきみたいにお互いの言葉が重なることも少なくはない。




 だが、言葉が重なったとき、言葉を止めるのはいつも魔王のほうだ。

 魔王がそういう性格なのか、あるいは俺が人間だから少し遠慮しているのか、俺が考えたところでその理由は分からない。ただ、魔王がもう少しだけ本心を話してくれたら、もう少し魔王と仲良くなれたりするのかな。なんてことをいつも思ってしまう。



「なぁ、俺もそっち行っていいか?」



「んー」



 と、魔王はまたもや画面から視線を外さずに気の抜けた返事をする。



「なんだ?勇者もゲームやりたいのか?」



 近づく俺を、寝転がったままの魔王が上目遣いに見上げる。

 聞いてくれたはいいが、楽しそうに遊んでいる魔王からコントローラーを奪おうとは微塵も思わない。



「いや、俺は見てるだけでいい」



「……」



 無言でゲームを再開する魔王のすぐ隣に腰を下ろす。


 ゲームの中の勇者はそろそろレベル50になろうというところ。

 もうこのゲームもエンディングか……。どんな結末だったかな、なんて記憶の引き出しを漁ってみるが思い出しそうな気配もない。


 まぁ……どうでもいいか。



「このゲームもそろそろクリアしそうだな。次はどんなゲームがやりたいとかあるか?」



 画面を眺めつつ、隣にいる魔王に尋ねた。



「んー……次も戦うやつがいい」



「そうか、じゃあこれの続編だな。忘れなかったら次来るときに持ってきてやるよ」



「んー」



 と、やはり魔王は気の抜けた返事をした。

 ただ、今回の返事はほんの少しだけ嬉しそうな返事の気がした。



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