魔王と友達になりまして!

竹千代

第1話 怠惰の王



 魔王城。


 それは魔王ライラの眠る城であり、俺の旅の終着点とも言えよう。




 世界を旅し、小さな村から出た俺はいつの間にか誰もが知る勇者になっていた。大きな鳥の背中に乗れば、世界中に行けないところなんてきっとどこにもないだろう。海底も、神の城も、過去の世界にだって行って来た。

 長い年月を経て、ようやくここまで来たのだ。


 かつて一緒に旅をした仲間はもういない。

 一人、また一人と新たな土地で出会いを見つけ、みんなそれぞれの幸せを育んでいる。




 だが、俺は違う。


 勇者として魔王を倒し、この世界に平和をもたらすことを亡き父から受け継いだ運命。魔王を倒すことだけが俺の生き様であり、俺の存在価値だ。世界に平和をもたらさないことには俺の幸せなんて――。



「勇者勇者ッ!ココ、ココはどうやって行くのだ?」



 不意に聞こえてくる幼い可愛らしい声に俺の思考が停止する。


 柔らかそうなクッションに体を預け、うつ伏せにパタパタと楽しそうに交差する白い脚が視界に映る。その手にはコントローラー、すぐ横にはカラフルなクッキーが綺麗に並べられた皿。

 そんな怠惰の欲望に支配されつつ、目の前のディスプレイに釘付けになっている年端もいかない女の子を俺は見つめる。



「勇者、早くッ」



「っとな、そこは石像の下に隠し階段があって――そう、そこだ」



 画面の中の主人公が石像を動かし、軽快な音楽とともに隠し階段が姿を現した。

 その様子にパタパタと動いていた女の子の足が一層楽しそうに揺れる。



「さっすが勇者ッ」



 画面を眺めていた女の子がうつ伏せのまま振り返り無邪気に笑った。

 かと思えばすぐにまた視線を画面に戻し、何事もなかったかのようにコントローラーを操作し始めた。


 階段を下りて数秒、画面の中の主人公が魔物と出会い戦闘が始まる。ターン制コマンドバトルの、いわゆるRPGと呼ばれるゲームだ。

 勿論、それを操作するのはコントローラーを握った女の子。




 RPGと言えば勇者が魔王を倒しに行くという、俺にとってはなんとも皮肉この上ないゲームとなっている。が、上に上がいるというものだ。魔物が勇者を操作して魔王を倒しに行くなんて、きっとゲームの製作者だって思いもしないことだろう。


 派手なエフェクトとともに放たれた魔法が画面内の魔物を倒していく。

 そんな画面を眺めつつ、依然寝転がったままの女の子が人差し指と中指に挟んだクッキーを小さな口に運んだ。


 こんな体たらくな姿を見て、なぜ誰も注意しないのか。

 その答えはいたって単純である。


 魔物を倒し終え画面が切り替わるその一瞬、コントローラー片手に2枚目のクッキーに手を伸ばす女の子を眺める。




 そう、この堕落しきった女の子こそが魔王城の主、ライラだからだ。



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