第6章 新たなはじまり

6-1 未来への漣

 翌日は留学先のリスト音楽院で再発し、重症化した持病のネフローゼ症候群の治療継続のため奈良で入院していたN病院の紹介状で都内のS病院へ行くことにしていた。真智子も慎一と一緒に暮らすことになったことを考慮し、慎一に付き添うことになった。直人も慎一が引っ越せるよう準備するため、慎一と一緒に弟の家に泊まった。


 一方、真智子はまどかと修司それぞれに慎一と一緒に暮らすことになったことをメッセージで伝えた。慎一ともふたりのことをよく理解している修司とまどかには早めに伝えておこうということで意気投合していた。真智子は修司とまどか、それぞれに手短にまとめたメッセージを送った。


―急なことで、びっくりするかもしれないですが、真部慎一と高木真智子はこのたび、一緒に暮らすことになりました―


 メッセージを送った後、まどかからはすぐに返信があった。

―え、ほんと?おめでとう!一緒に暮らすって同棲だよね?それとも結婚?ご両親にも許してもらえたんだよね?―

―一応、まだ同棲。慎一が両親に挨拶に来てくれたの―

―だけど、ついこの前まではハンガリーに留学した真部君から連絡がないって悩んでいたんじゃなかったっけ?

―そうなんだけど、まどかにはまだ伝えてなかったけど、慎一、病気で奈良に戻っていて、この前、会いに行ってきて、その後、とんとん拍子でそういうことになったの。しばらく準備で忙しくなりそうだから、詳しいことはまたそのうち、話すね―

―そうでなくても、真智子、忙しそうだったからね。私は春休み中は暇だから、私に何か手伝えることがあったら、いつでも連絡してね―

―わかった、ありがとう。また、連絡するね―


 一方、修司からの返信はなかなか届かなかった。真智子は桐朋短大の友人、長井絵梨にまだ練習に参加できない旨を連絡した。春休み中の練習は自由参加ということになっていたので、成績に直接的な影響はないとはいえ、ピアノのパートは目立つので、早く順調に練習に参加できるようにしなければと思った、その瞬間、携帯電話が鳴った。案の定、修司からだった―。


―真智子が電話に出ると修司の大声が響いた。

「真智子、お前、慎一と一緒に暮らすってそれ、ホントかよ!」

「ええ、ホントよ」

「そうか。この前、奈良に行くって言ってたけど、お前、今も奈良にいるのか?」

「今は東京に戻ってるよ。今日、慎一が奈良から両親に挨拶に来てくれたの」

「そうか。おめでとうと言うべきなんだよな」

「……とにかく、春休み中に慎一も叔父さんのところからピアノが置ける部屋に引っ越す予定で、同時に私もここを出て、慎一と一緒に暮らすことになったの」

「じゃあ、同棲するってことか」

「今のところ」

「そうか……。奈良に行くって連絡があった時から予感していたが、こんなに速い展開になるとは思ってもいなかった……、もちろん、結婚前提ってことだよな。そうでないとお前の両親だってそう簡単に許すはずないし」

「……奈良でもいろいろあったんだけどね」

「慎一、真智子のことは真剣だって言ってたし、俺も慎一の気持ちを聞いて真智子のこと諦めたところもあったからな……。くやしいけど、祝福するよ」

「でも、まだ結婚のことは慎一と話し合いながら、時期を決めることになると思う」

「そうだけど、一緒に暮らすってことは……」

「修司、エッチなこと想像してるんだろうけど、慎一は病気の療養中だし、留学を終えて、新学期からは芸大に戻るところで大変だから、一緒に暮らすことにしたんだよ」

「そういえば、真智子、奈良にお見舞いに行くってことだったもんな」

「……詳しいことはまたそのうち……、修司も忙しいだろうから」

「ああ、こっちは相変わらず、サッカーの練習と試合の日々を繰り返してるよ。でも連絡、嬉しかった。慎一の病気、早く良くなるといいな。真智子も自分のこともあるから大変だと思うけど、頑張れよ!」

「修司も頑張ってね。じゃあ、明日のことがあるから、そろそろ電話切るね。忙しいところ、電話、ありがとう。また、連絡するね」

「おっ、了解。またな!」


 修司からの電話を切った後、真智子は一瞬、高校時代に戻ったような気分になった。そして、思い返せば慎一と出会った頃から修司にもまどかにもよく話を聞いてもらって、二人の友情に支えられてきたことを改めて実感する真智子だった。


 

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