3-③ 鬼首鈴鹿、推参

注:この物語はフィクション(以下略)


 道の前後を三人ずつのダークスーツの男たちに挟まれた山川と長谷部。

 六人とも明らかに何らかの武道を嗜んでいる足運びで、どんどんと間合いを詰めてくる。

「どうする?」

 長谷部がダークスーツたちに注意しながら、山川に聞いた。

「1対3を二面でやるより、どっちかに集中して2対3で突破する方がマシだと思うけどね」

 そう言って一方を指す山川。

 顔を見合わせ頷き合うと、二人はそちらの三人に向かって駆けだした。

 向かってきた山川と長谷部に対し身構える三人のダークスーツ。

 一番右端の男が長谷部の側頭部に右のハイキックを放った。スピードの乗った理想的な蹴りだ。

 それを長谷部は左腕を立てて受けた。衝撃に筋肉と骨が軋む。鈍い痛みに顔をしかめながら、お返しに右のローキックを相手の軸足の膝の外側に放つ。

 どれだけ鍛えても肉を付けることができない膝に強烈な一撃を食らって男は体勢を崩した。

 そこへすかさずボディブローが入る。鳩尾のあたりに重い拳を貰って悶絶する男。意識が暗転して崩れ落ちる。

「まず一人」

 長谷部は吠えた。

 一方の山川は苦戦していた。

 顔を狙った上段突きは躱され、反対にフックのいいのを食らいそうになって慌てて避ける。

 もともと山川は剣道は全国大会に出れる位の腕だが、空手と柔道はあまり得意ではないのだ。

「ヤベーかな?」

 ボソリと呟く。こんな事なら坂崎の言うとおり、空手と柔道にも精を出しとくんだった。と思っても後の祭りである。

 ちらっと横を見ると、長谷部は二人目と交戦中だった。

 ほぼ互角の拳と蹴りの応酬が繰り広げられていて、到底こちらの応援はできそうにない。

 覚悟を決めて構えた山川に襲いかかるダークスーツ。

 左のジャブが矢継ぎ早に放たれ、顔の前に両腕を立ててブロック。それに気を取られていると右のフックが襲いかかってきたので危うく躱す。

 どうも相手はボクサー崩れのようだ。 

 「ボクシング・スタイルならやりようはある」

 そう言って攻勢に出る山川。

 顔を左腕でガードしたまま右の上段突きを放つ。それを綺麗な動きで躱す相手。

 だが次の瞬間、体勢が崩れる。山川のローキックが決まったのだ。

「ボクサー相手には足技。アリ対猪木からの常識」

 そう言い、拳で牽制しながらローキックを連発する。

 それに焦れた相手が大振りのフックを繰り出してきたのを頭を反らして躱し、金的に蹴りを放つ。足の甲に柔らかい物が潰れる感触が伝わる。

 股間を押さえて倒れる男。口からは泡を吹いて悶絶している。

「悪く思うなよ……がっ」

 ちょっとやり過ぎたかなと思った山川の背に蹴りが入れられる。たまらず地面に転がる山川。

 後ろの三人が追いついて来たのだ。

刑事デカのくせに汚ねぇ真似しやがって」

 三人の蹴りが山川を襲う。

 体を丸め顔と後頭部をブロックして耐え忍ぶ山川だったが、背中に腹に蹴りを何発も食らって苦鳴を上げた。

「ごふっ」

 いい一発が腹に入り、空気を全部吐き出す山川。

 その苦境を横目で見ながら、長谷部は長谷部で苦戦していた。

 簡単に倒せた最初の男とは力量が段違いで、長谷部の放つ拳を蹴りを余裕で捌き、お返しに鋭い攻撃を仕掛けてくる。

 おそらくはこの男が六人の中で最強なのだろう。山川をいたぶっている三人は、こちらには加勢しようとしていないからだ。

 男の右の貫手が長谷部の顔を狙って放たれた。慌ててそれを払う長谷部の右足の甲に鈍痛が走った。

 男の左足が長谷部の右足の甲を踏みつけていた。貫手をフェイントにしたのだ。

 次の瞬間、踏み込んできた男の肘打ちが鳩尾に叩き込まれた。右足を踏まれているために動きが制限され、まともに食らってしまう。

 衝撃が走り暗転しそうになる意識を必死で繋ぎ止める長谷部。がその努力も次の一撃で水泡と化した。

 斜め下からのアッパーが顎をかすったのだ。梃子の原理で頭が揺られ、中身の脳味噌に脳震盪を引き起こす。

 倒れる長谷部。それを見下ろして、

「手こずらせやがって。おい、何時までもソイツで遊んでんじゃねぇよ! さっさと気絶させろ」

 と山川を蹴りまくっている三人に指示を出す。やはりこの男がリーダー格らしい。

「は、はい」

 三人が焦った様子で頷き、山川を蹴る脚に力を入れる。

「そこまでにして貰えるかな?」

 女性の声が道路に響き渡った。

 リーダー格がそちらを向くと、道路の端の十字路に差し掛かる所に、カッターシャツにチノパンという服装の女性が立っていた。

 ショートカットで女性にしては長身、顔は綺麗というか凛々しい感じで、そこそこの主張をしている胸さえなければ服装も相まって男性と見間違えるであろう、その女性はゴルフバッグを左肩に担いでいた。

 その女性は、

「警視庁捜査零課二係 鬼首おにこうべ鈴鹿すずか、推して参る!」

 と高らかに名乗り、ゴルフバッグを肩から下ろした。

 ゴルフバッグのジッパーを開き、中の物を取り出す。それは黒漆塗りの鞘に収まった日本刀であった。

 それは一般的な日本刀とは違っていた。柄が40㎝近く、鞘に包まれた刃の部分は1mを越えている。野太刀・斬馬刀などと呼ばれる類いの物だった。

 鞘に入ったを右肩に担ぎ、

「ソイツらは同僚なんだ、返して貰うよ」

 と男達に言い放つ。

「ちぃ、てめえも一緒に連れてってやるよ」

 男の一人がチンピラそのもののセリフを吐いて、鈴鹿の方へと走り出した。

 間の距離が5mになった時、鈴鹿が動いた。

 傍目から見れば、それは瞬間移動のように見えたであろう。鈴鹿の体がフッと消え、次の瞬間には男の前にその体はあった。5mの間合いを一瞬にして詰めたのだ。

「せい!」

 気合いの声と共に振り下ろされる野太刀。男の脳天に吸い込まれて、頭蓋骨を通り越し脳味噌に衝撃を与える。

 一瞬にして意識を失い倒れる男を見て、他の奴らがいきり立つ。

「このアマ!」

 二人が鈴鹿に迫る。長くて重い野太刀では二人同時には対処できないだろうと判断したのか、それとも只単に多人数でかかろうとしただけか。

 左右に分かれて鈴鹿に襲いかかる二人。取り回しの悪い野太刀では分が悪いと思われたが、それは杞憂だった。

 鈴鹿の体が沈んだかと思うと、長大な刀で地面スレスレを払う。一人の男の足を払った後も勢いは止まらず、もう一人の足も払って地に這わした。

「鬼首流剣術『草刈り』。さっきのは『斬岩剣』」

 鈴鹿は技名を告げる。

 男二人は足の脛を押さえて呻いていた。骨にヒビでも入ったか、下手したら骨折でもしたか。

 残ったリーダー格が舌打ちをして鈴鹿を睨みつける。

「古流剣術か。この二人とは格が違うな、アンタ」

 睨み合う鈴鹿とリーダー格。見上げる山川には高まる闘気が目に見えるようであった。

 鈴鹿が野太刀を右肩に担いだその時、道路にスモークガラスの黒いバンが乗り込んできた。倒れている男達のすぐ脇に停車する。

 スライドドアを開けて出てきたのは、拳銃を構えたダークスーツ二人と素手の二人。

 消音器サイレンサーを付けた自動拳銃オートマチックが鈴鹿に向けられる。

 消音器サイレンサーのせいで控えめになった銃声が一発、二発と鳴った。

 しかし、その銃弾は鈴鹿の体を捉えられなかった。あの瞬間移動とも思える動きで射線から身を引いて移動したのだ。今は山川と長谷部のそばに立っている。

 その隙にリーダー格は倒れている男達の回収をしていた。バンから降りてきた二人と共に、倒れている仲間をバンに放り込む。

「良し、全員回収!」

 リーダー格が拳銃の二人に声を掛けると、二人もバンに乗り込んだ。

 勢い良くアクセルを吹かして発進するバン。道路を通り抜け、十字路を左折してこの場から消えた。

「やれやれ、逃がしたか……と、長谷部さん、新入りさん、大丈夫?」

 しばらく車の消えた方を見ていた鈴鹿だったが、怪我人二人を思い出して声を掛けた。


鬼首鈴鹿、推参 終了

 

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