2-⑦ 虜囚の女たち

注:この物語はフィクションで(以下略)


 猟兵の変化した人虎が河五郎を追って森の奥に消えたのを見送った神楽坂は、呻き声を上げて倒れたままの村長の息子・孝に歩み寄った。

 左脇のホルスターから自動拳銃オートマチックHK45を抜き、それの銃口を孝の額に当て、殺気を込めた声を放つ。

「さて村長の息子さんとやら、好き勝手やってくれたな? 洗いざらい喋るか、これで額に風穴開けるか、2択だ」

 声に込められた殺気と突きつけられた拳銃を前に孝の抵抗の意思は霧散した。

「な、何でも喋るから助けてくれ、いや助けて下さい」

「いつから河童共とつるんでた? て言うか、どうやって意思疎通をしている?」

 神楽坂の質問に答える孝。

「アイツらは人間の言葉を喋ることができるんだよ、昔攫った娘に教えて貰ったとか言ってた。ただ人間の言葉は疲れるから喋りたくないんだとさ」

 孝の 言葉に驚く一同。

「なるほどな……さて、次だ。いつからつるんでた?」

「足跡が見つかった次の日だ。五郎沢で釣りをしていたら奴らが現れて『助かりたければ協力しろ』って。俺も重蔵爺さんから百年前のことは聞いてるから首縦に振ったよ、死にたくねえもん」

「それで村の会議の時に、弥生ちゃんを差し出せばいいって主張したのね!」

 静香が顔を怒気を露わにして口を挟んだ。

「そうだよ。それなのにお前が正幸に連絡して東京の警察を呼ぶなんて言うから」

 バツが悪そうに顔を背ける孝。

「そもそも正幸も死んだ栄作も、この村捨てて東京に行った裏切り者だ。今さら口出すんじゃねえよ」

 ブツブツと冬木兄弟の文句を言い続ける孝。

「そんなに正幸兄さんが憎いの?」

 静香の問いに、しばし躊躇したあと答える。

「東京の大学行って警察入って出世して……同じ村の同い年なのにアイツだけ。それに栄作はともかく正幸は村に帰ってこない。帰ってきたのは栄作の葬式と法事の時だけじゃねえか!」

 孝の口から冬木刑事部長に対する恨み辛みが怒濤のように流れ出た。

 同い年だからこそのコンプレックス、かたや東大を卒業して警視庁のお偉いさん、かたや田舎の村で燻り続ける毎日。どんどんと劣等感は膨れ上がる。

 それが今回の件で爆発して、冬木刑事部長の面子を潰すために零課の邪魔をするという短絡的な行動を取る事になったのか。

「お前さんの刑事部長に対するコンプレックスはもういいよ。次に聞きたいのは、河童の棲み家だ」

 孝の恨み言を遮り、核心を聞く神楽坂。

「〈湧き水のほら〉だよ」

 ボソリと呟く孝。

 頭の上に?マークを乗せて顔を見合わせる坂崎と神楽坂に静香が説明する。

「〈湧き水の洞〉とは五郎沢の源。山の麓に洞窟があり、中には地底湖と言ってもいい大きさの泉〈無明泉〉があるの。そこから湧き出た水が洞窟の外に流れ出て五郎沢の源流になる」

「なるほど……河童はその地底湖を棲み家にしてんのか」

 坂崎の言葉に孝はかぶりを振る。

「違う、その先だ。〈無明泉〉の対岸に暗くて見えないけど奥に続く道がある。奴らはそこから出入りしている」

「地底湖の先か……念のためウェットスーツ持ってきといて良かったぜ」

 神楽坂はそう言うと孝の額からHK45の銃口を外した。

 助かったと安堵する孝に、

「じゃ、お前さんは事が済むまで眠ってろ」

 と言って脇腹に蹴りを入れる。

 蛙のような呻き声を上げて気絶する孝。

「俺は行くから、後よろしく。坂崎さん」

「ああ、分かった。首謀者のこいつがここでのびてる以上、こっちは大丈夫だろ」

 坂崎の言葉に頷き、神楽坂はランクルに装備を取りに行った。

     *   *   *

 川原は洞窟の中の大広間を見渡した。発光苔のおかげで薄暗くはあるが多少は見えるその内部には無数の河童がいる。どうやら村に来ていたのはまだ一部だけだったらしい。

 山の麓にある水の流れ出る洞窟に入り、地底湖を子分の河童に掲げられながら渡り、陰に隠れて見えづらい通路を抜けた先がこの大広間だ。ここが河童の棲み家なのだろう。

 川原と弥生は子分河童に逃げられないように囲まれながら、大広間の奥に連れてこられた。

 そこには奇妙なモノがいた。十人程の裸の女性なのだが、肌の色が緑色。河童の雌か?と思ったが、皿も無ければ背の甲羅も無い。

 その内の一人が川原と弥生を見て口を開いた。

「貴方たちも攫われたの?」

 その言葉を皮切りに他の女性達が泣き始めた。

「何時までこんなこと続くの?」

「もういや……」

「もう外では百年経ったの?」

 さめざめと泣く女性達を見渡し、川原は聞いた。

「もしかして百年前に集団で攫われたっていう村の女の人達?」

 その言葉に緑の女性達は頷き先程の娘が、

「はい、百年前に五郎沢村から攫われた者です」

 と答えた。

って、もしかしてそれより前の人達もいるの?」

「はい、います。おババ様達、新しいが来ました」

 更に奥の方に声を掛けると、暗闇の中から4人の河童モドキの女性が現れた。

 この場所の娘達と比べて年を経ているように見える。中年・初老・老女二人の組み合わせだ。

 一番年が上に見える腰の曲がった老婆が口を開く。

「この世の地獄へよう来たの。儂の名はお里。おババと呼ばれている一番の古株じゃて」

 おババは皺だらけの顔を川原と弥生に向けて言った。

 川原は新しく出てきた4人を見比べ、

「あの~、百年ごとに攫われてきた人達ですか?」

 と聞いた。

「そうじゃ。みんな百年区切りで、ここに連れてこられた。儂が外にいた頃は、足利の将軍様の威光が衰えて各地でお武家が好き放題やり始めた時代じゃった」

 おババが昔を懐かしむように喋るのを聞いて、川原は『ガチで戦国時代の人なんだ』と奇妙な感動に打ち震えていたが、それを頭から消し去り疑問点を聞くことにした。。

「あの3点ほど聞いてもいいですか?」

「構わんよ」

「何故皆さん、数百年も生きてるんですか? その緑色の皮膚は? 何故百年ごとなのか」

 川原の疑問に、おババが溜め息をつきながら答える。

「ここに連れてこられると、ある物を食べさせられる。緑色のブニュブニュしたものじゃ。これを食べ続けると体の色が緑色に変化して老化が極端に遅くなり、そして河童の子供を孕みやすくなる。ま、要するに河童の仲間になるのじゃ」

 怖気に身を震わせ生唾を飲み込みながら、

「それ食べないでいることは……」

 と言うと、

「食べるのを拒否すると、押さえ込まれて無理矢理食わされる。で最後の何故百年ごとなのかじゃが、百年ほどたつと母体にガタが来るのか、子供ができにくくなるんじゃよ。それで新しいのを補充に行く、と言うわけじゃて」

 おババの説明が続く中、比較的(外見は)若い娘達は嗚咽を漏らしていた。

 攫われて人外のモノにされ百年もの間、河童に犯され子供を産まされる。正にこの世の地獄。

「そっかあ、じゃそれ食べさせられる前に逃げなきゃ」

 その言葉に今までずっと沈黙していた弥生が反応した。

「逃げてどうするんです!  逃げたって村で捕まって河童に引き渡されるだけじゃないですか!」

「弥生さん、落ち着いて、ね」

「素直に私が行けば良かったんです! そうすれば川原さんを巻き添えにしなくて済んだし、猟兵さんだって死なずに」

 泣き叫ぶ弥生。

 その弥生の肩に手を置き、川原は言った。

「二つ訂正しとくね。猟兵じゃなくて猟兵ね。目つきの悪いチンピラ顔だけどまだ22歳、あたし達より年下。それと死んでないから、彼」

 川原の言葉を聞いて弥生は目を見開いた。

「だって銃で撃たれて倒れた……」

「詳しい話は省くけど猟兵君はあんくらいじゃ死なないから……」

 そこまで言ったとき、洞窟内に咆哮が轟いた。ライオンか虎などと言った大型肉食獣の雄叫びだ。

「だー、来ちゃった。よりにもよって虎モードで来た。人がせっかく誤魔化そうとしてんのに虎で来た。もー知らない!」

 川原の折角の気配りを余所には大広間に現れた。


虜囚の女たち 終了

(済みません、人虎VS河五郎は次回に持ち越しです)



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