2-⑥ 五郎沢村攻防戦

注:この物語はフィクションで(以下略)



 戦いが始まった。

 森からわらわらと出てくる河童の集団に、神楽坂が構えた自動小銃アサルトライフルHK416から放たれた5.56㎜弾が襲いかかる。青黒い血を流しながら倒れる河童。

 どうやら河童達の体前面の防御力は人間と大差ないらしく、小銃弾がちゃんと効果を発揮している。


「弾き返されたらどうすっか。と思ったが、ちゃんと効くな」


 そう言いながら、神楽坂は河童に銃弾を浴びせ続けた。3点バーストモードで的確に河童に3発ずつ弾をぶち込む。

 九堂は倒れた河童の頭頂部の皿を、革ブーツのつま先で蹴り割ってトドメを刺していく。そして抜き放ったレイジングブルを河童に向けた。

 全長42㎝、重量1.8㎏の巨大な銃を右手1本で保持し、撃鉄ハンマーを親指で起こす。迫る河童の鼻面に銃口を向け、引金トリガーを引く。

 轟音と共に454カスール弾が発射され、河童の上の嘴を砕きながら顔面に叩き込まれる。44マグナム弾の2倍の破壊力の巨弾は河童の顔を完膚なきまでに粉砕した。

 顔面に大穴を開けて仰向けに倒れる河童。手足をビクンビクンと出鱈目に痙攣させる。死の舞踏(ダンスマカブル)という奴だ。

 末期の痙攣をする仲間を迂回し、九堂の横をすり抜けようとした河童は左の剛拳を側頭部に喰らう。

 拳の形に綺麗に陥没した側頭部を見せながら、口から大量の泡と青黒い血を吹きこぼして倒れる河童。


「凄い、河童を殴り飛ばした」


 居間の障子を少し開けて外をを覗いていた弥生は驚嘆した。

 恐れられてきた河童を素手で殴り飛ばすその姿は、幼少期に両親が死んでから身寄りのない子として肩身の狭い想いで生きてきた弥生にとって衝撃的だった。

 この閉鎖的な村でなにもかにも諦めて生きてきた。要らない自分は、村のために河童に捧げられればいい。そう思っていた。

 だが、あの人はそれは違うと言った。犠牲になる事などないと言ってくれた。静香のような例外を除き、村の人はそんな優しい言葉を掛けてはくれなかった。あの言葉を言われた時、初めて一人の人間として認められた気持ちになった。

 あの人なら私を救ってくれる、守ってくれる。弥生は初めて希望を心に感じていた。

 

 九堂が放った前蹴りを身を反らして躱し奇声(笑い声?)を上げる河童。が次の瞬間、踵落としで皿を割られ、鼻から血を口からは泡を吹いて倒れる。


 弾を撃ち尽くしたレイジングブルの銃把グリップを河童の横っ面に叩き込んで張り倒し、喉に足裏を落として体重を掛け首をへし折る。


 強烈な膝蹴りを腹に食らい前屈みになった河童の首に腕を巻き付け、ねじり上げて首を

折る。


 無数の河童を相手に縦横無尽に暴れ回る九堂。その背後から襲いかかろうとした河童に、神楽坂が銃弾を撃ち込んだ。

 戦いが始まって10分も立ってないが、庭には瞬く間に河童の死体が量産されていた。


「よし、このままイケぇ!」


 川原が言ったその時、本命が現れた。

 森の中から、2mを遙かに超す巨体の河童が出てきたのだ。胸板は厚く、腕と脚の太さも今までの河童とは段違い。これがおそらく

群れのボスの河五郎だろう。


「ゲー!」


 河五郎が奇声を上げる。

 すると他の河童達が後退し始めた。河五郎より後ろの方に集まる。


「子分ども下がらせたか。これ以上やっても奴らじゃ猟兵を突破できないって理解したのか」


 障子の隙間から今までの戦いを見ていた坂崎が言った。

 庭の真ん中で睨み合う九堂と河五郎。


「河童風情が人間の女狙ってんじゃねーよ! 大人しく雌のウシガエルでも相手にしてろ!」


 吠える九堂。利き手の右手を前に半身に構える。銃はとうに投げ捨ててある。

 対する河五郎は脚を開き腰を落として前屈みの体勢を取っていた。相撲取りのあの姿勢だ。

 グッと力が入ったかと思うと、その巨体からは信じられないほどのスピードで九堂に突進してきた。ぶちかましである。

 九堂も踏ん張ったが、体重差は如何ともし難く弾き飛ばされた。衝撃を流すために転がった後、立ち上がる。


「正面からはやっぱ無理か……今度はこっちから行くぜ!」


 そう言って九堂が仕掛けようとした時、銃声が鳴り響いた。

 九堂の体が横に吹っ飛び、脇腹から血を流し地に倒れ伏す。銃声と共にもう1発、体に撃ち込まれた。

 神楽坂が銃声のした方に目をやると、家の陰から髭面の男・村長の息子の孝が現れた。その手には猟銃とは違う大口径の狩猟用ライフルを持っていた。


「てめえ!」


 孝に銃を向けると、後ろから声がした。


「動くと仲間の命ねえぞ」


 戦いの混乱に紛れて家に侵入していた孝の取り巻きが居間の坂崎達に猟銃を突きつけていた。


「外へ出ろ」


 全員、庭に出された。神楽坂には銃を捨てるように孝が言い、その通りにする。


「さあ、河五郎。弥生連れてって棲み家に帰ってくれ」


 孝がそう言うが、河五郎は奇声を上げて子分の死体の方を指差した。


「仲間が死んでるって言いたいのか? それやったのは余所者だ。そ、そうだ。ならその余所者の娘連れてけ! それでいいだろ?」


 孝がそう言うと、河五郎は川原を見ていやらしく笑った(ように見えた)。

 河五郎が弥生と川原に近付いてくる。


「く、来んな!」


 川原が弥生を庇うようにして牽制するが、河五郎はそれを意に介さず二人を両脇に抱え込む。

 川原は脚をバタバタさせて抵抗したが、弥生は無抵抗だった。その光を失った目は倒れた九堂を見ていた。


「ゲー!」


 河五郎は川原と弥生を抱えて子分と共に森の奥へと消えていった。


「孝さん、貴方なんて事を!」


 静香が詰め寄るが、孝はそれを受け流して言った。


「余所者の女と奴隷女で村が助かんなら安いもんだろ?」

「奴隷? 弥生ちゃんのこと? なんて酷い言い方するの!」

「奴隷は奴隷だ。い~や、共同所有物と言った方がいいかな」


 孝が下卑た笑みを浮かべながら言う。


「アイツはな、十代半ばの頃から村の男どもの共同所有物なんだよ。村の男どもの中でアイツとヤッてない奴なんかいねえ。勃ちもしない枯れた爺い以外はな」


 その言葉を証明するかのように、取り巻きの男達も下卑た笑いを浮かべていた。


「な、なんてことを! 貴方たち最低よ」


 静香は怒りをぶつける。


「親死んだアイツを村ぐるみで育ててやったんだ、その恩を体で払って貰っただけだ。トロいけど体付きだけはいいからな」


 下衆の言葉に、


「正幸さんと栄作がこの村出た理由が今分かった気がするぜ」


 と坂崎が吐き捨てる。


「何とでも言いやがれ。後はお前らをぶっ殺して終わりだ。河五郎にやられた事にしてな」


 孝は坂崎達にそう言って、銃の引金に指を掛けた。取り巻きもそれに倣う。

 その時、獣の唸り声が聞こえた。

 狩猟用ライフルで撃たれ死んだはずの九堂が唸り声を上げていた。

 皆が見守る中、その体が膨れ上がった。体を包む革製品が内圧に負けて引き千切れていく。その下から覗いた体表には毛が生え始めていた。

 黄色を地に黒の縞模様の体毛、そう虎の体毛に酷似したそれは全身を瞬く間に覆っていった。

 変化は体格の巨大化と体毛だけではない。手と足の指からは恐ろしげな捕食獣の爪が伸び、頭部もギチギチと音を立てて変形していた。

 側頭部の耳が頭頂部の方に移動し、口も大きく裂け中には鋭利な牙が見える。瞳も月光を反射して輝く猫類の物に変わっていた。

 グルグルと唸りながら立ち上がったはまさしく人の形をした虎、人虎であった。

 牙が見える口を大きく開け、人虎が咆哮を上げる。その雄叫びは響き渡り、人の遺伝子に刻まれた捕食者への恐怖を励起した。

 全てを喰らう魔獣、それは辺りを睥睨しライフルを構えた孝の所で視線が止まる。


「さっき撃ったのはてめえか」


 喉・発声器官も人と異なっているためか、その声は不明瞭で聞き取りにくかった。

 怯えて歯を打ち鳴らす孝の前に立ち剛腕一閃。へし折られたライフルと共に血反吐を吐きながら吹き飛ぶ孝。

 それを見た取り巻きが猟銃を捨て我先に逃げ出す。反射的に追おうとした人虎に神楽坂が声を掛ける。


「あんなのほっといて河五郎を追え! 俺もすぐに跡追うから!」


 その言葉に我に返り、河五郎を追って森に駆け込む人虎。

 人虎VS河五郎、魔物同士の対決が始まろうとしていた。


五郎沢村攻防戦 終了

(弥生の扱いに関しての言い訳は近況で)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます