2-⑤ 桐生弥生

注:この物語はフィクションで~(以下略)


 冬木静香の案内で一同は村の外れ昼なお暗い森の手前の、ビニールハウスを三つほど脇に備えた平屋建ての日本家屋に着いた。

 家の前に車とバイクを停めて下車、静香が玄関の前に立ち、中に声を掛ける。

「弥生さん、静香よ。帰ったわ、警察の人も一緒」

 家の中から若い女性の返事が聞こえ、玄関の曇りガラス越しに人影が見えた。鍵を外す音がして、玄関が開く。

 そこにいたのは、一言で言うとダイナマイトボディの持ち主の女性だった。

 身長は170ぐらい、長袖シャツとロングスカートに包まれた胸と尻は非常識なまでに張り出している。腰回りもそこそこあるが上と下が圧巻な為にあまり気にならない。腰まで届くスーパーロングヘアをハーフアップに。顔立ちは写真の通り、垂れ目のふっくらした優しげな雰囲気であった。

「この子が皆さんに守ってもらいたい桐生弥生さんです」

 静香が女性を紹介する。

「は、初めまして。桐生弥生です、よろしくお願いします」

 そう言って女性・桐生弥生は一同に頭を下げた。


 居間に移り、弥生の淹れた茶を飲みながら、静香の説明を聞くことになった。

「河五郎に関する詳しい説明と、先程の『百年前の悲劇』をお話ししたいと思います」

 静香は一端言葉を切り、坂崎に聞いた。

「正幸兄さんから、河五郎に関して何処まで聞いてるかしら?」

「すぐそこの川、五郎沢に棲みついてる河童としか聞いてない」

 坂崎の答えに、額に当てて溜め息をつく静香。

「全く説明してないじゃない……」

 神楽坂が挙手して、

「済まない、ちょっといいか? さっき河五郎って言ってたが、河童は複数いるのか?」

 と気になったことを質問する。

「はい……河五郎というのは、五郎沢に棲みつく河童の群れで一番大きい奴のことを言います。言い伝えでは身の丈八尺(2M40)程だとか。他にそれに従うちょっと小柄な河童が数十匹……」

「ちょっと待て! 敵戦力が予想と違いすぎる。最初からそれ言われてたらMAG、最低でもMINIMIを持ってきてた」

 神楽坂が頭を掻きながら愚痴る。

 MAG ベルギーのメーカーFN社製の機関銃マシンガン、MINIMI 同じくFN社製の分隊支援火器である。分隊支援火器とは機関銃より小振りで、短機関銃サブマシンガンよりは大きめの連射フルオート可能な銃器の事だ。

 重苦しい雰囲気に包まれる一同。だが九堂が口を開いた。

「隊長、今そんなこと言ったってしょうがない。いつも通りだろ、手持ちの武器でやり繰りすんのは。エロ河童どもぶっ殺して、この人守んなきゃ」

 弥生をちらちら見ながら言う九堂の言葉に、溜め息をつきながら神楽坂は同意した。

「ま、猟兵の言う通りか……戦力整えて万全の状態で敵を迎え撃てる時の方が少ねえもんな、良しやるか!」

 その言葉に零課一同は頷いた。

「でだ…静香。さっきの『百年前の悲劇』てのは何だ? 百年前、何があった?」

 坂崎が先程聞きそびれた事を静香に聞いた。

「河五郎が百年ごとに村の娘を拐かしに来るというのは聞いてる?」

「ああ、それは聞いてる」

「そう……百年前、明治の末期ね。同じように河五郎は村の娘を攫いに来た……」

 明治時代末期、河五郎は村の娘を標的に定めた。今までならば娘を差し出していた所だが、文明開化を過ぎ日清・日露両戦争も経験した時勢もあり、『河童なんて怖いもんか』と当時の村人は立ち向かうことを決意する。

 狙われた娘の家に潜んでいた村人は、やって来た河童を村中かき集めた複数の猟銃でつるべ打ちにし倒れた所を袋叩きにして殺した。

 これで村は河五郎の恐怖から開放された、と思われたが最大の恐怖は翌日の夜に現れた。

 八尺の巨大な河童を中心に数十匹の河童が村を襲撃したのだ。襲われる家々、嬲り殺される男達、手籠めにされる女達。村中が阿鼻叫喚に包まれた。

 おぞましき饗宴は一晩中続き、夜明けと共に終了した。河童達は標的の娘だけではなく村の若い娘を全員連れ去った。

 後に残ったのは、荒らされた家屋や畑、そして死体の山。これが百年前に村に起きた出来事である。

「連れて行かれた子の中には当時の村長の娘さん、さっき会った前村長のお姉さんも含まれていたそうよ」

 静香はそう説明を締めくくった。

「ん? 今なんて言った? 百年前にあの爺さんのお姉さんが攫われた? あの爺さん、幾つだ?!」

 坂崎が食いつく。

「前村長・高野重蔵さんは今年で108歳、百年前のことを覚えている最後の生き証人よ」

「なるほどね、下手に逆らったら村がまた襲われる。一人で済むなら安いもんってこと? 感じ悪ぅ」

 川原の言葉に弥生が悲痛な表情で応えた。

「でも私一人で村が救われるなら……」

 それに九堂が異を唱えた。

「それは違う。誰か一人が犠牲になることで他の大勢が助かるなんて間違ってる! 大丈夫、俺達は物の怪退治の専門家だ。必ず河童ぶっ殺して貴方を守ってみせる」

 力説する九堂。

「ほ、本当に……?」

「はい、任せて下さい!」

 右の拳を握りしめて力説する九堂を見て、川原が坂崎と神楽坂に顔を近づけて言った。

「なんか猟兵君、いつもと違う。知らない女の人の前じゃあんま喋んないのに」

「確かに……アイツにも春が来たか?」

 坂崎がそれに応え、神楽坂が話を締めに入った。

「零課のスタンスは『人に害なす物の怪は排除する』だから、どちらにしろ河五郎一族は全滅させるしかない。やるぞ!」

「応っ!」

 かけ声が上がった。


 早めの夕食、山盛りに持ったご飯茶碗を弥生から手渡され、赤くなっている九堂を見て、川原がニマニマと笑みを浮かべていた。

「う~ん、これは本当に…かな?」

「川原、あんま茶化すなよ」

 と神楽坂が釘を刺している横で、坂崎と冬木静香は又もや二人だけの世界を作っていた。

「志郎さん、これ好きだったでしょ?」

「お、山菜の天ぷらか。いいねぇ」

 こうして微妙にピンク色の空気を漂わせて夕食は進み、それが終わったら茶を飲みながらの防衛会議の始まりである。

「弥生さんと静香さんはこの居間でじっとしててくれ。坂崎さんと川原はその護衛、俺は縁側で、猟兵は庭に降りて河童どもを迎撃する。いいな!」

 神楽坂が一同に指示を出す。

 それを聞いて弥生が驚き、神楽坂に詰め寄った。

「そんな、庭で一人で河童に立ち向かわせるなんて!」

「大丈夫、あの男はこのメンツの中じゃ最強ですよ。タイマンでアイツに勝てる奴なんかそうそういない」

 神楽坂が九堂の実力に太鼓判を押し、

「大丈夫だよ、弥生さん。猟兵君、強いから」

 と川原も同調する。

「それならいいですけど……」

 二人の言葉に不承不承引き下がる弥生。

「もしかして…脈あり?」

 川原は小声で呟いた。


 庭に九堂が一人立ち、縁側で片膝付いた状態で神楽坂が待機、残りは居間でまとまっている。そんな状況のまま数時間、満月が辺り一帯を照らす中、九堂の耳が音を聞きつけた。

 森の奥から足音が、落ち葉や枯れ枝を踏み荒らす音が聞こえる。かなり、大勢の足音だ。

「隊長、百年前の経験生かして今回は最初から団体でご来場みたいだぜ、お客さん」

「それならそれで後腐れないから好都合だ」

 そう言ってHK416を構える神楽坂。

 森から人型のが現れた。緑色の蛙のような皮膚、頭には皿状の物、背中に背負った甲羅、濁った沼の匂いを放つそれは紛れもなく河童だった。

 容赦なく河童に向けて銃を撃つ神楽坂。5.56ミリ弾を受けて崩れ落ちる河童。

 こうして五郎沢村攻防戦が始まった。


桐生弥生 終了




 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます