2-③ いざ五郎沢へ

「ねー、隊長。あたしも銃持たなきゃ駄目?」

 川原が武器庫の銃を見渡しながら言った。

 パソコンを扱うことしかしてこなかった彼女からすれば、この武器庫の中身は完全に門外漢であり、できれば関わりたくない代物であった。

「あのなぁ、件の女性、身辺警護するってったのは自分だろ? まさか素手で河童に立ち向かうのか?」

 呆れたような神楽坂に、

「まさか猟兵君じゃあるまいし。ただ、どんな銃がいいのか分かんないんだもん。ぶっちゃけ、どれも同じに見える」

 と率直な感想を述べる。

「たくよぅ、だから射撃訓練には参加しろって言ってんだよ。自分にどの銃が合うのか分かるから」

 神楽坂が苦言を呈した。

 そう零課では定期的に射撃訓練を行っているが、川原は「ほぼ内勤のあたしには撃つ機会ないし」と言って一度も参加してないのだ。

「ぶー」

 ぶうたれる川原を横目に見て、溜め息をつきながら神楽坂は銃を選び始めた。

「小柄でしかも銃を使い慣れてない、お前さんには…」

 そう言って選び出したのは、かなりコンパクトな自動拳銃だった。

 全長15㎝ほどしかないその銃の名は、ワルサー PPS。三島のP99を小型化したコンシールメント(隠匿性)に優れたハンドガンである。使用弾は9㎜パラベラム。

「お前さんなら、こんなとこか」

 一番短い6発入り弾倉マガジン銃把グリップに叩き込んで遊庭スライド引き弾丸を薬室チャンバーに装填。そしてマガジンを引き抜いて弾丸を一発込め直した後、再度グリップに叩き込む。

「なんで、そんなめんどいことやってんですか?」

 川原の疑問に、

「コンバットローディングってな、こうすりゃ一発多く撃てるだろ。」

 と答えて、神楽坂は拳銃を渡す。

「とにもかくにも、絶対に撃つ時になるまで引金トリガーに指を掛けんな。撃つ時には容赦無く撃て。俺と猟兵、坂崎さんで河童食い止める気だが、もし目の前に現れたら全弾、叩き込め」

 と心構えをレクチャーする。 

「は~い」

 川原の間の抜けた返事を聞きながら、自分の武器の選定に入る。

 45ACP弾を使う拳銃HK45はいつも通りとして、他には…自動小銃アサルトライフルの棚に来て、手に取ったのはH&K社のHK416だ。

 ドイツの銃器メーカー、ヘッケラー&コッホ社が次期米軍制式小銃を目指して作り上げた傑作銃である。ドイツ製らしい堅実な造りで信頼性が高く、自衛隊の一部でも導入されているという。

 HK416の点検に入った神楽坂の向こうでは、九堂猟兵が銃に弾を込めていた。

 トーラス レイジングブル。ブラジルのトーラス社製の凶悪な回転式拳銃リボルバーだ。全長42㎝、重量は1.8㎏にもなる。使用弾は454カスール弾、あのダーティハリーの愛銃に使われていた44マグナム弾の2倍の破壊力の弾薬である。

 普通ならデカすぎに見えるが、日本人離れした体格の九堂には似合っていた。

 坂崎はいつも通りにSIG P226を左脇のホルスターに吊っている。

 ひとしきり銃の動作確認が終わった所で神楽坂が声を挙げる。

「よし、じゃあ行くか。猟兵はいつも通りタイガーで、後は俺のランドクルーザーと、坂崎さんのハイエースだが。川原、どっちに乗る?」

「ん~、ハイエース! 隊長の車、乗り心地悪そうだもん」

 朗らかに言い放つ川原、それを聞いて苦笑し、

「まあ、俺のランクルはオフロード対応のSUVだからな。乗り心地はあまり考慮されてない」

 と言う神楽坂。


 駐車場に降りて、それぞれの車に別れる一同。

 神楽坂はトヨタのランドクルーザーAX。四輪駆動のオフロード対応大型SUVだ。

 九堂はトライアンフのタイガー1200 XCa。色は濃い青のマリーン仕様。悪路走行性を重視した大型リッターバイクで、これまた九堂の巨体にベストマッチしている。

 川原は坂崎のハイエースワゴンGLへ乗り込む。自分の愛車のダイハツ ミラトコットは軽のため長距離移動には向かないので留守番である。

 神楽坂、坂崎、川原が骨伝導式通信機内蔵のヘッドセットを着ける。九堂はモトクロスヘルメットに通信機が内蔵されている。

 通信機のスイッチを入れ、神楽坂は号令を掛けた。

「よし、五郎沢村へ出発。道は坂崎さんが知ってるんですよね?」

「ああ、俺が案内するから追ってきてくれ」

 ハイエースを先頭に分室を出る一行。

 一路、河童の出没する五郎沢へ。

 

 途中トイレ休憩に寄ったサービスエリアで、川原が九堂をお供にして大量の食い物(イカ焼き、タコ焼き、フランクフルトetc.)を買い込み、神楽坂と坂崎を呆れさせたのは言うまでもない。

「「観光旅行じゃねえんだぞ」」

「だってサービスエリア来たら、こーゆーの買うの基本でしょ」


いざ五郎沢へ 終了

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