エピローグ

 手に汗を握っていた。

 屋上の扉を開く。

 吹き抜ける風に、彼女のポニーテールが揺れていた。


「恵美」


 呼びかけると、背を向けていた彼女は振り向く。


「何?」


 智志は彼女を真っ直ぐに見つめた。

 とてもきれいだと思った。


「俺はお前が好きだ」


 恵美は何も答えず、じっと彼を見つめている。


「……いきなり何を言うかと思えば。その言葉はもう聞いた」


「ああ、そうだな。俺はお前が好きだ。だから、俺だけの物にしたい」


「ハァ? いきなり何? 自分勝手にもほどがあるわよ」


 恵美が鋭く睨む。けど、智志は怯むことなく、微笑みかける。


「その通りだ。俺は自分勝手だ。そして、どうしようもないくらいに、憶病者だ」


 智志はゆっくりと恵美に歩み寄る。


「好きだ、恵美。俺と付き合ってくれ」


 恵美はきゅっと唇を引き結ぶ。


「本気で言っているの?」


「ああ」


「もし、私が断るって言ったら?」


「そうしたら……すごくショックで泣くな」


「何よそれ、バカじゃないの?」


 恵美もすっと智志に歩み寄る。


「自分で言うのもなんだけど、私って凄くモテるの」


「知っている」


「だから、男なんて選び放題なの。あんたみたいなロクでもない男、わざわざ選ぶ必要もないの」


「そうだな」


 二人の距離が縮まった。すぐ目の前で互いを見つめ合う。


「私が今ここであんたをフッたら、ストーカーの如く追いかけたりする?」


「いや、それは無いかな。面倒だし」


「何よそれ、あり得ない。あんたの口から『面倒』だって」


「ああ、俺にもそんな一面があるんだよ」


「サイテーの告白ね」


 恵美は憤りの顔を見せる。


「俺のこと、嫌いになっちゃった?」


「ええ、嫌いね。あんたのことを想うと、胸がムカムカしてしょうがない」


「そっか……じゃあ、潔く君のことはあきらめて……」


 瞬間、恵美が抱き付いて来た。


「……バカ、そこはちゃんと今までのあんたらしく頑張りなさいよ」


「ごめん」


「謝るな、バカ」


 恵美は智志の制服をぎゅっと握り締めた。

 柔らかい感触が、智志の胸を満たす。

 そして、顔を上げる。

 再び見つめ合うと、二人の頬は紅潮していた。


「キース、キース」


 ふいに、そんな声が聞こえて来た。

 二人が振り向く先で、シーナがいたずらな笑みを浮かべている。


「ちょっと、あんた!」


「や~ん、恵美ってば、こわい~」


 睨む恵美に対してシーナはクスクスと笑う。


「お前ら、やることさっさと済ませろよ。だりぃから」


 いつの間にか、レイジがそこにいた。

 彼は欠伸を噛み殺しながら言う。


「お前ら、最低だな」


「お前ほどじゃねえよ、相棒」


 レイジが言うと、智志は一瞬ムッとしながらも、微笑を湛える。


「ごめん、恵美。邪魔が入ったから、また今度でも良い?」


「良いけど……なるべく早めにね」


「うん」


 智志と恵美は笑い合う。


「リア充だね~、死ねば良いのに」


 レイジがからからと笑う。


「黙れよ、レイジ。お前はもうお前自身なんだから、羨ましかったら自分も恋人を作れよ。何なら、そこのシーナなんてどうだ?」


「智志、私の可愛い恵美の恋人だからって、冗談でも殺すわよ?」


 シーナが手に鎌を持って笑顔で凄んで来たので、智志は自重する。

 そのタイミングで、予鈴がなった。


「さてと、教室に戻るか」


 智志が踵を返して歩き出そうとすると、恵美がきゅっと彼の手を握った。


「ねえ、智志」


「どうした?」


「今日の放課後……デートしよ」


「うん」


 智志が頷くと、恵美は恥ずかしそうに微笑む。

 そんな二人を、レイジとシーナはこれ以上からかうことはしない。


「じゃあ、さっき出来なかったキスをして、それから……いやん、その先は言えない~」


 やはりシーナがからかった。


「あんたぶっ飛ばすわよ!」


 恵美がキーッと怒ってシーナに詰め寄って行く。

 その様子を見て肩をすくめる智志は、ふとレイジと目が合った。


「レイジ」


「ん?」


「まあ、その何だ……これからも、よろしくな」


 レイジはわずかに目を瞬かせる。


「だりぃ」


「お前も最低だよ」


 智志がジト目で睨むと、レイジは青空を仰ぎ笑った。







 (了)

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アンビバレント 三葉空 @mitsuba_sora

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