第75話 なぜか、リア神との生活が終わらないんだが⑤
「お世話と言えば……1つ気になったのですが、翔和くんと加藤さんって付き合いが長いのですか?」
「うん? どうした突然?」
「以前、家でお会いした時も掃除道具を持ってきていましたし、翔和くんの家に何度も足を運んでいるようでしたから」
「あー、なるほど……。そういうことか」
たしかに健一は凛が来る前まで、たまに来てはゴミ出しや掃除をしてくれていた。
他にはコンビニのおにぎりをくれたり……。
けどこれは、
「単純に健一の面倒見いいだけじゃないか?」
「確かに、それはおっしゃる通りですが……」
「だろ?」
俺はお茶を啜り、何やら腑に落ちない様子の凛を横目で見る。
「でも翔和くんと話している時、楽しそうですよ?」
「う〜ん。 ま、顔見知り期間は長いから、それなりに話すけど。今ぐらい話すようになったのは去年からだしなぁ」
「去年と言いますと中学生の時ですよね……? 何かきっかけがあったのでしょうか?」
「いや、俺には思い当たることがないな……」
健一は賑やかなリア充達の中心人物。
例えるなら、男版リア神といったところだろう。
欠点という欠点はまるでない。
面倒見がいいし、誰でも分け隔てなく接することができる……そんな人物だ。
まぁ、だから俺のような奴にも普通に接してるのかもしれない。
クラスで浮いている俺が放っておけないとかね。
なぜこうなのか俺にもわからない。
……考えても、覚えていないから仕方ないことだけど。
「……そうだ。凛の方こそどうなんだ?」
「どう? と言いますと?」
可愛らしく小首を傾げ、俺の顔を見上げてきた。
「学校ではいろんな奴と話してるだろうけど。一番、仲がいいのは藤さんだろ? いつからの付き合いなのかなぁ〜って思って」
「そうですね。琴音ちゃんとは幼馴染ですから、物心ついたときには一緒にいましたよ?」
「へぇ〜。それは初耳だなぁ」
「親同士が仲良しですからね。家族ぐるみで旅行に行くこともあるぐらいです」
「んじゃ、凛にとって藤さんは1番の良い親友ってわけね」
“良い親友”という言葉を発した途端、凛は顔をしかめた。
俺は首を傾げ、凛の顔を真っ直ぐに見つめる。
「なんか、変なこと言ったか……?」
「いえ、ただ思うことがありまして……」
「それは親友ってところに?」
「はい。親友と言える人物というのは、いつの間にかいる存在で『私達、友達だよね?』と確認する必要がないと思っています。ただ、敢えて言葉にするのであれば、“親友”と言えますけど」
「えーっと、普通に友達とか親友って言っていいんじゃないの?」
「そうですね……。そうやって言うことは決して悪いことではないと思います。ただ私は、“友達”や“親友”という存在を口にしてしまうと、なんだか薄っぺらい上辺だけの関係に見えてしまうので……正直なところ好きではないのです」
「上辺だけ……か」
「はい。こういう関係って形としては見えないものですから、言葉よりは“感じる”。つまりは感覚的なものに近いと思います」
「なるほどなぁ」
「だからこそ……見えないから、わからないから不安にもなりますし、その不安を共有・解消したいからこそ『私達、友達だよね?』という確認行為が行われるのかもしれません」
「……それはよくわかるな……本当に」
今までの生活で“友達”と自信を持って言える人物はいるか?
俺の答えは『ノー』だ。
元々、話す奴も少ないが……話したことある奴をそのまま“友達”と言えるかと言われたら……当然、言えない。
相手の気持ちなんてわからないし。
考えなんてわかるわけがない。
言葉に出して“友達”と言ったことが真実である証拠なんてどこにもない。
言葉は所詮、言った言わないの水掛け論にしかならないのだ。
「これはあくまで私の考えです。実際は聞かないとわからないことも多いですし……。ただ、『聞いてしまうのが怖い』『聞かないのも怖い』という葛藤は常に付きまといますけどね」
そう言った凛は何でもないように微笑んだ。
だが、それはどこか寂しそうな表情にも見え、瞳の色が揺らいでいるような気がした。
知りたい。
けど、知るのが怖い。
知ってしまったら……その結果ぎ良いこととは限らない。
——だから、只々怖い。
きっと凛も思うところがあるのだろう。
だから、完璧に表情を作り切れていないのかもしれない。
凛は何度か小さく深呼吸をし、表情を切り替える。
そして俺の方を見るとにこりと笑った。
「なので翔和くんと加藤さんの関係っていいですよね」
「そお?」
「私からしたら、翔和くんと加藤さんのような関係が“良い友人関係”に見えますよ。お互いに言わなくても何か通じ合ってる気がしますし」
「そういうもんかなぁ〜? 俺からしたら、腐れ縁で考えばっか当てられて、いつもいいようにやられてる関係って感じがするけど」
「ふふっ。確かにそういった面もありますね。けど、遠慮なく言い合える気兼ねない関係とも言えると思います」
「ま、それは捉え方次第だなぁ」
知らなかった、人によってはそう見えるのか。
あまり考えたことなかったな〜。
「そう考えると翔和くんと加藤さんの関係って、私と琴音ちゃんの関係になんとなく似てる気がします」
「似てる……のか? うーん。まぁ、たしかに藤さんは遠慮なくズバッと切り込んでくるのはわかるけど。つまりはそういうこと?」
「はい、そういうことです。私って、良くも悪くも完璧に見られてしまうので……」
『完璧に見られてしまう』それだけ聞くと普通は嫌味に聞こえるが、凛の場合は『そうだな』と納得してしまう。
事実、完全無欠と言ってもいいぐらいのスペックの高さだしね。
だからそんな凛に指摘を出来る人はいないのだろう。
けど、それはあくまで表面上の完璧さ。
実際は——
「良くも悪くもね~。俺からしたら、意外と抜けているところも多いけどなぁ」
「ふふっ。琴音ちゃんにもよく言われます」
「だろうな」
「でもそういうことを指摘してくれるのは、翔和くんと琴音ちゃんぐらいなのですよ。私を叱ったり、色々と教えてくれるのは……」
そう言うと彼女は顔を少し赤くして、照れるように微笑んだ。
「だから嬉しいんです。ダメなことはダメと言ってくれて、私をありのままを見てくれる人が」
自分を受け入れてくれる存在。
ありのままを見てくれる存在。
“虚”ではなく真実を見てくれる存在。
たしかにそれは嬉しいことだろう。
取り繕う必要がないというのは、とても楽なことだから。
「じゃあ、これからも何かあったら遠慮なく言わないとな」
「ふふっ。是非、お願いします」
嬉しろうに微笑む彼女を見て、俺は小さく笑う。
指摘に対してむっとすることなく、ダメなところはダメと素直に受け止める。
寧ろ『何かあったら言って欲しい』とまで言うぐらいだ。
そんなことが出来る人間だから、凛は魅力的な存在に見えるのかもしれない。
向上心の塊……凄いなぁ。
困るよ、本当に……。
嫌いになれるところがないじゃないか……。
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