第31話 リア充と朝食を


 今の現状……この狭い部屋に3人とやや窮屈である。

 そして、非常に気まずい状況……の筈だが、健一と若宮は特に気に留めた様子もない。

 いつも通りの自然体だ。



「常盤木さん、おはようございます。それと加藤さんも」


「うっす! いやぁ〜、まさかこんな事になってるとはな。露にも思ってなかったぜ」


「加藤さんはどうしてこちらに?」


「そろそろ翔和の家を片付けようと思ってな! ま、杞憂だったみてぇだけど。なー若宮?」


「ふふっ。そういうことでしたか」



 と、こんな風にのんきに談笑している。

 俺はため息しか出ないというのに。

 はぁ、知られたくない奴に知られてしまった……。



「なぁ若宮さん、来る前に一言ぐらい言って欲しいんだが……」


「そうですか? でしたので、特に必要ないと思って——」


「ちょ、待てって!」



 俺は慌てて若宮の口を塞ぐ。

 若宮の唇の感触が直に手に伝わってくるが、余韻に浸る余裕もない。


 そう、時すでに遅し……。

「ほぉ、いつものねぇ〜」と健一の顔にはニヤついた笑みが張り付いていた。


 口を塞がれた若宮の口がもごもごと動き、なんだかくすぐったい。

 俺は深く息をはき、手を口から離した。



「……常盤木さん?」



 頰を赤らめ膨らました彼女が責めるような目で俺を見る。

 助けを求めようと健一を横目で見るが、相変わらずニヤニヤしていて助ける気がまるでないのが明らかである。



「女性の口をいきなり塞ぐのは、いかがなものかと思いますが……何か弁明はございますか?」


「……すまん。デリカシーに欠けてたわ」



 肩を落とし、家の古びた天井を見上げる。


 若宮はもう少し自分の失言を気にした方がいいと思うんだけど……。

 知られたら不都合なこととか……気恥ずかしいとか……。

 ないのか? って思う。


 普通はあると思うんだが……。



「そういえば常盤木さん、朝食は食べましたか?」


「……いや、まだだけど」


「食べなくてはダメですよ? 朝食は1日のエネルギーの源なのですからね」


「へいへい。わかってるよ」


「わかっているのなら生活を見直して下さい。では、私は台所を借りますね? 簡単な物でよろしいですか?」


「ああ、好きに使ってくれ」



 慣れた手つきで、フライパンや食材、そして料理の準備を進めていく。


 その様子を健一は、ふむふむと頷きながら感心するように眺めていた。

 そして、何を思ったのか俺の横に近づき——



「これはいい嫁さんになるな」



 と耳元でオヤジ臭いことを囁いた。


 俺は軽く咳払いをし、鬱陶しさを表すように健一をしっしっと手で追い払う。



「知らん。……まぁ、世話焼きなのは事実だし、料理の実力は認めるが」


「ほほぉ〜。それにしても手際いいよなぁ。まるでみたいな動きだぜ」


「へぇ、流石は若宮さんだな……」


「部屋も随分と綺麗だしー。家に来ているのも1度や2度じゃないみたいだしな〜」


「ふーん……」


「『ふーん』じゃなくて認めろよ、こら」



 俺は目をギラつかせた健一から目を逸らし、若宮をチラッと見る。

 視線に気がついた若宮は、軽く微笑む。

 魅力的な表情だが、今はただただ逆効果である。


 そう、今のを見た健一が、リア充御用達の色恋沙汰を見つけたような無邪気な顔をしている。



「もう勘弁してくれよ……」


「いやいや〜、勘弁も何も言い逃れが不可能なぐらいになってるからな? んで、どうなのよ実際?」


「どうって……見ての通り餌付けされた捨て犬のような状態だよ、俺は」


「ん? じゃあ付き合ってるわけじゃないってことか?」



 的外れ質問に嘆息する。

 勘違いも甚だしいな、おい。



「ちげぇよ。あり得ないだろ普通に……次元が違うわ」


「この様子で付き合ってないと……」


「どんな様子に見えるか知らないが、そんな関係性じゃない」


「マジかよ……ありえねぇわ」



 健一は、ワニのような大口を開けて呆れたような表情になる。

 イケメンが台無しな、ものすごいアホ面だ。



「そろそろ出来ますけど、加藤さんも食べますか?」


「おっ、さんきゅー! まぁ翔和の余りがあったら貰うわ〜」


「ふふっ。多めに作りましたので持って行きますね」



 若宮が料理を皿に乗っけ、それを俺たちの前に並べていく。

 それを見た健一は「おー」と感嘆の声をあげる。


 並べられたのは、フレンチトーストにハムエッグ、サラダもありそれに加えて温かいスープ。


 どう考えても、若宮がさっき言ったような『簡単な物』のカケラもない。

 寧ろしっかりと凝っている、気合いの入った料理にも見えた。



「これはすげぇな翔和!」


「うっさい。さっさと食え……」



 興奮気味の健一にため息をはき、料理に手を伸ばす。

 が、若宮に手を止められる。



「食べる前には言わないとダメですよ?」


「……わかったよ。その……いただきます」


「はい。どうぞ、召し上がって下さい」



 俺は料理を夢中で口に放り込んで、それを咀嚼した。

 健一は「琴音には作れねぇな〜」と笑いながら食べる。


 今度、藤さんに会ったら言ってみるのも面白いかもしれない。

 ま、小さな反撃ぐらいにはなるだろう。


 この狭い家に3人。

 だが、不思議と窮屈な思いはしなくなっていた。




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