第28話 リア神とテストと反省会
夏休み前の定期テストが終わり、俺はまたバイト生活に戻っている。
今日は休日ということもあり、店内は客で賑わい同じバイトのメンバーが笑顔を振りまきながら仕事をしていた。
俺はそんなメンバーを尻目に休憩時間をとっている。
そして、いつもの定位置に陣取る若宮のところでテストを広げていた。
「現実は非情だ……」
俺は返ってきた定期テストの答案を見て呟く。
前よりはマシになったものの、前が最低最悪の最底辺だったので上しかない。
つまりは上がらない場合は、現状維持でしかないわけである。
だから一応、上がってはいる。
だが……俺はテストの答案を見ながらため息をはく。
まぁ、人の脳みそはそう簡単にミラクルを起こせないってことを改めて学んだな。
「ひとまず赤点ではなくて良かったですね」
澄んだ声のする方をちらりと見る。
リア神はドーナツを美味しそうに食べ、至福の表情を浮かべていた。
机にはテストの答案とノートが置かれている。
その答案は、見える限りの点数だと100点しか見えない。
……これがリア神とど底辺の差か。
「教えてもらったのに悪いな……」
「そんなことないです。常盤木さんは頑張ったと思いますよ」
「頑張った結果がこれだとなぁ」
赤点ギリギリのオンパレード。
約束したご褒美には到底及ばない結果である。
まぁ、赤点を回避したことで夏休みは無事迎えることが出来るので、その点に関しては御の字ではあるが。
「常盤木さん今まで勉強せず“0”の状態だったわけですから、そこから“1”に上がった、一歩進んだと考えれば悪くないです」
「それはそうだが……」
「それに私の方こそ、自信満々に成績を上げると宣言したのにも関わらずその成果を出せていないわけですから、責任はどちらかと言うと私にあります」
「すいませんでした」とぺこっと頭を下げる若宮を俺は慌てて止める。
周りの客も美少女が頭を下げる様子を見て、怪訝な顔をしている。
「あのな若宮さん。若宮さんは全く悪くない。学校の先生よりすげぇわかりやすかったし、ためになった。けど、それをモノに出来なかったのは俺の落ち度であり、若宮さんの責任ではない」
「いえ、私の責任です」
「いや俺が」
「私です」
なんだこの逆の責任押し付け合いは……。
しかも、頑なに若宮は認めようとしない。
頑固だなぁ。
でも少しむっとした表情で言う若宮は、少し可愛く思えた。
「責任どうこうは一旦いいや。若宮さんはテストを広げて何やってるの? まさかテスト直し?」
俺は話題を変えるために、若宮のテストを指をさす。
ノートに何かを書いているようだが……。
「違いますよ」
「ちなみに今回のテスト結果は? 見えてる限りは満点みたいだけど」
「はい、全て満点です。なんとか首位はキープ出来ました」
「そりゃあ、おめでとさん」
「ありがとうございます」
全て満点って……どうやったらとれるんだよ。
ちなみに前回の学年2位は、健一である。
まぁどうせ健一のことだからまた2位にはなってるんだろうなぁ。
「んじゃ、なんでノートに書いてるわけ? テスト結果も見る必要ないだろ?」
「先生の傾向分析をしています」
「は?」
「今回テストを作っている先生の出題場所、出典先等々の傾向をノートにまとめています」
「ハハハ……すげぇな、本当に」
テストが終われば、羽を伸ばしたくなるのが学生だ。
そんな中、次回のテスト準備をしている。
こういった面があるからこそ、若宮は優等生なのかもしれない。
その努力には、素直に感心するな……。
俺には出来ない。
「けど、あれだな……テストが終わったから、この勉強も終わりだと思うと少し寂しくなるな」
これはつい出てしまった独り言。
ただ、呟くには些か声が大きかったかもしれない。
でも愚痴りたくもなる。
勉強は嫌だし、やりたくはない。
だけど、あの時間が嫌だったかと聞かれたら嘘になる。
今までにないぐらい充実していたのは間違いないのだから……。
でもテストが終わった今、その時間が訪れることはもうないのだ。
「えっと、どうして“終わったー”みたいな表情をしているのですか?」
若宮が首を傾げ、「何言っているのですか?」と言いたげな表情をする。
俺もつられるように首を傾げた。
「……終わりじゃないの?」
「じゃないですよ。そのためのノート作りですし」
「え、そのため……?」
「今回はやはり時間が足りませんでしたからね。それで、次回のために予想問題でも作ろうかと思いまして。備えあれば憂いなしですから」
俺のためにわざわざノートまとめを?
リア神の甲斐甲斐しさに驚きを隠せない。
「それに、今回の結果は私、納得いっていません。もっと出来たこと、改善すべき点などがあると思うのです。それに私、約束しましたよ。『いい点をとらせて差し上げます』と」
「いや、改善すべきは俺の頭だからな……って、うん? どういうこと??」
「私は、まだ約束を守れていないということです」
「だから続けます」と言葉を連ねる。
不覚にも嬉しいと思ってしまった。
鬱陶しい雲が晴れていく、そんな気持ちである。
それと同時に、この関係が続くという安堵感が俺の心を包む。
だが、毛ほどにも顔には出さない。
出したくない。
だから短く「そっか」とだけ答えた。
「ですので勉強はしばらく続きます」
「いいのか? 俺に時間を割いていたら自分の時間なくなるぞ」
「問題ないです」
「テストの点も落ちるかもしれねぇし」
「落ちないです」
「いや、万が一ってことも——」
「万が一もないことは私のテスト結果が証明していますよね?」
俺の前に満点の答案をざっと並べる。
普通だったら嫌味に感じるかもしれないが、それは感じなかった。
俺を納得させる証拠のように思えたから。
「もし、これで納得がいかなれけば中学の成績もご提示しますけど」
「持ってきてんの!?」
「勿論です」
逃げ道を完璧に塞ぐリア神に、俺は思わず苦笑したのだった。
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