第23話 リア神が夢中になるものとは


 美少女と自転車でツーリングという、なんとも珍しい朝を終え、俺と若宮は教室の前にいた。


 登校時間ということもあり、廊下は人で賑わっている。


 友人と談笑する者。

 単語テストの勉強をする者。

 机で突っ伏して寝てる者。


 と様々である。


 そんな中、多くの視線を集めているのがこのリア神なわけである。

 まぁ、多くは羨望の眼差しだが……。


 しかし今日は、その好意的な視線を奇異な視線に変え、しかもそれが俺に集中していた。

 中には怒気に満ちた視線もある。


 理由はわかる。


 わかるなら解決すればいいだろ?

 と思うかもしれない。


 だが、それを俺は解決することは出来ない。

 正確にはと言うべきだろう。


 そう、1番簡単な解決方法は、彼女から距離を置いて関わらないことだ。


 しかし、それが無駄なのは昨日わかっている。

 仮に今日、同じようなことをして解決に努めようとしたら、リア神に全て防がれる。

 そして、昨日の公開処刑が実行されるだろう。


 そんな未来しか見えない。



「常盤木さん、どうかしましたか?」


「いや、別に。若宮さんは大変だなって思ってさ」


「なんのことですか?」



 若宮はきょとんとした顔で小首を傾げる。

 そのちょっとした可愛らしい仕草にドキッとした。



「ほら、めっちゃ見られてるだろ? いつもこんな感じだと思うと大変だなって」


「うーん、そうですね。確かに気になる時もありますが……。今はそんなに気になりませんよ?」


「慣れたってわけか」



 流石は有名人。

 注目されることに馴れる程、周囲からの視線を集めているのだろう。

 俺が同じ立場だったら、間違いなく引きこもる自信がある。

「視線怖い!」「俺を見るなぁぁあああ!」とか言って……。


 だから、馴れるまで至った彼女の気苦労は俺に想像することは出来ない。

 そのことが、少し悲しく感じる……。



「慣れたわけではないです。ずっと噂されることは、気分がいいことはないですし……。指を差されて『ねぇねぇ、あの人だよ』とコソコソとお話されているのを見て、何も思わない人はいませんよ」


「そうだよな……」


「ですが、人間は他に夢中になったりすると意外と気にならなくなるものなのです」


「あー、なるほど。確かにそうかもな」



 確かに何かに集中していたりする時って、周りの雑音が全く気にならない。

 スポーツ選手だと所謂“ゾーンに入った”みたいな状態だ。


 この前、『気分はコントロールできる』って言っていたし、そう言った内面的なものの調整は、リア神にしたらお手の物なのかもしれない。



「私の場合、最近はそればかり考えているので他の事が全く入ってこないのです」


「へぇ〜、若宮さんをそこまで夢中にさせるのってなんだ? やっぱりドーナツか?」


「私、そこまで食いしん坊じゃないですっ! た、確かに……ドーナツは好き……ですけど」



 薄っすらと赤く染め、若宮の顔には羞恥がほんのりと浮かんでいた。

 普段とのギャップに、見ているこっちまで恥ずかしくなってしまう。

 いつもは感情の起伏がそんなにないからね……。



「えーっと、じゃあ他に夢中になってるのは何?」


「今でしたら、“どうやって常盤木さんの成績を上げるか”ですね」


「視点が最早先生だな」


「他には、“バランスの良い食事の提供について”です。後、興味があるのは“ダメな子供の躾について”ですね。学びたいことは沢山あります」


「おい、どうしてそこで俺を見る……」



 ものすごーく決意に満ちた目をしてるけど……そんなに張り切らなくてもいいと思うんだけどな。



「任せて下さいと約束しましたからね」


「確かに言ってはいたが……あれは本気だったのか?」


「本気ですよ?」


「無理にその約束を遂行しようとしなくてもいいぞ? ほら、俺って勉強出来ないし、無理なことは無理で仕方ないと思うけどな」


「約束を守ることは当然です。ですので、何としても成し遂げて見せます」



 彼女は胸の前で小さく拳を握り、気合いを入れる。



「まぁ、気負いしないようにな。俺もダメな生徒にならないように、ほどほどに頑張るよ」


「ふふっ」


「……笑うところがあったか、今?」


「常盤木さんが『ほどほどに』って言うので、少し微笑ましく思ってしまいまして」


「うん?」


「常盤木さんって自分を低くく見ることが多いですが、言われた課題はきちんとやっていますし、教わった所を理解しよう努力した跡がノートなどから見て取れます。ですので十分『ほどほど』から卒業していますよ?」


「……うるせぇ。あれはあくまでほどほどに……だよ」


「ふふっ。では、そういうことにしておきましょうか」



 俺はそっぽを向き、窓の外を歩く生徒達を眺める。

 慌てて走る奴もいるし、そろそろ時間か。



「じゃ、俺はそろそろ教室に入るわ」



 俺の言葉に若宮はハッとした様子で時計を見る。

 そして小さくため息をはいた。



「そうですね、確かに時間です」


「そういうこった」


「では、私も教室に向かうことにします。常盤木さん。授業中、寝てはダメですからね?」


「わかってるよ。じゃあまたな」


「はい。失礼しますね」



 丁寧にお辞儀をし、彼女は去っていった。

 俺は最後まで見送ることなく、教室に入る。


 俺が入った途端、静まり返る教室。

 教室は、俺の様子を窺う視線で溢れていた。


 そんな中、俺の席に座る悪友がニヤついた笑みを浮かべ、俺を今か今かと待っている様子だった。

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