第13話 リア神はダメ人間を放ってはおけないらしい



「ごちそうさん」


「はい、お粗末様でした」



 若宮はタッパーを片付け、持参したと思われる布巾で机を拭いている。


 ……結局、全部食べてしまった。

 そして残さず食べたのが嬉しいのか、若宮は上機嫌である。


 片付けを終えた若宮が机を挟んで俺の正面に座る。

 相変わらず綺麗な姿勢だ。



「さて、そろそろ勉強をしましょうか」


「さっそくか……」


「はい、時間が空きすぎると効率が下がってしまいます。ですので、今日は昨日の復習やりましょう。それを徹底的にやって下さい」


「もし終わったら?」


「その時は、土台作りのために暗記です」


「へいへい……若宮先生に従うよ。その方が良さだからな」


「…………」



 若宮がきょとんとした顔つきで俺を見つめてきた。

 何か腑に落ちないことでもあったのか?



「ん? どうした?」


「その、失礼かもしれませんが……まさか素直に聞いていただけるとは思っていなかったので、素直に驚いています」


「本当に失礼だな、おい。俺なんだと思ってるんだよ……」


「捻くれ者さんです」


「当らずとも遠からずって感じだな」



 失礼な人間だと思われていたのか?

 たしかに人の言うことは聞かずに天邪鬼……。

 素直さのかけらもないが……。


 ああ、だからか。

 自分で言っていて悲しくなる。



「えーっと若宮、俺が勉強している間ら何するんだ? 一緒に勉強か?」


「いえ、私は常盤木さんが勉強してる間に昼食の準備でもしようかと。……ですが、先に洗わないと使えませんね、これ」



 かなり汚れているフライパンを見て、顔を顰める。


 年期が入ったフライパン。

 おそらく、油を弾くことなく吸いつけて、焦げる未来が見える。

 そんなフライパンだ。


 使ったのもいつか思い出せないほど、埃を被っている。



「悪いな……料理とかここに住み始めて以来してないから、フライパンは最早化石なんだよ」


「常盤木さんの家には、見つけて嬉しくない化石で溢れてますね」


「褒めるなよ。照れるじゃねぇか」


「褒めてません」



 少し口を膨らまし、不服そうにする若宮。

 ちょっとした仕草でも目を惹いてしまう。



「色々してくれるのはありがたいんだが、若宮さんの私生活……っていうか、自分の時間も必要だろ? 別に放っておいてもいいんだからな?」


「知ってしまったら放っておけませんよ。これは、私の今やりたいことですから。それに、常盤木さんがこのまま過ごしていたら、ダメ人間になってしまいそうですし……」


「自分で言うのもあれだが、既にダメ人間だからな俺。生活力とか皆無だ。正直、取り返し不可能だと思っている。だから今更、どうこうしようと……」


「大丈夫です。私に任せて下さい、真っ当な真人間にしてみせますから」



 拳を握り、決意して表情をする若宮。

 そこまで彼女を突き動かす原動力とは何だろう?


 あれか、雨で捨てられた仔犬を見殺しにはできない! って感じの心境か?



「では私は準備を始めますね。先に掃除をしてからですけど」


「使えない器具とか多そうだよな。ってかどれが使えるかとかもわからん」


「安心して下さい。必要だと思われる物は持参してますから」


「あー、だからその旅行バッグか。準備がいいな、マジで」


「フライパンから調味料、そして食材も入れてます」


「凄えな……っていうか、本当に昼まで用意してくれるのか?」


「そのつもりですけど……いりませんか? 嫌でしたらやめておきますけど」


「嫌ではない。寧ろ、めっちゃいる」


「ふふっ。それでは準備しますね。料理は自信があるわけではないので、あまり期待はしないで下さい」


「いや、大いに期待しとくわ」


「ありがとうございます。では腕によりをかけて頑張りますね。常盤木さんは勉強を頑張って下さい」


「おう」


「それと、今日は作り置きもして行きますから、しっかり食べて下さいね」


「オカンかっ!」


「洗濯物は畳んで置くので、ばらばらにしないで下さいね」


「そこまでやるっ!?」


「これもただのお節介です」


「それ、便利だから言ってないか?」


「気のせいです」



 相変わらずの澄まし顔で答える若宮。

 その端整な顔が薄っすらと赤く染まる。



 この後、夜まで俺は勉強をし続けることになった。

 眠りそうになったら起こされ、トイレでゆったりしようとしたらノックされ……徹底的にやらされることになった。


 だが、彼女が作ってくれた料理は美味しく、疲れた身体に染み渡るほどであったのは言うまでもない。


 料理に自信がないとか……嘘じゃないか!!

 改めて若宮の完璧っぷりを目の当たりにしたのであった。

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