9-カユウ

 私が人生で初めて、口で「あけましておめでとう」と言ってからもう一ヶ月になろうとしている。あと一週間くらいだ。


 ソヨもフタバも、全然不安そうな素振りは見せなかった。緊張でガタガタになってしまうのではないかと思っていたが、そんなことはなく、むしろ彼女と彼を見た時に自分の受験を想像して私がガタガタしている。


 今日は二人の本番だ。一人分の身体で、将来のために自分をぶつけに行った。

 二人の施設の人に聞いた話だと、あくまで一人の人間として受験をするらしい。学校側に事情は説明してあり、筆記のテストを受けるのがソヨで、リスニングをフタバが担当するのだそうだ。私は、二人の内面的な部分は全くの別人だからその扱いは気に入らない部分があった。それはそれとして、リスニングだけのフタバはずるいと思った。


 そんなことを思いながら触れた窓ガラスはキンキンに冷えてて、ぼーっとした心地から急に覚めてしまった。ガラスにうっすら映っている、フタバのことを考える私は顔を赤くしてにやけていた。その事に気がついて、思わず頬を隠す。


 フタバとソヨは別人だ。私はよく知ってる。


 だが、体がひとつなのも事実だ。ボーイッシュでかっこかわいい女の子である双葉ソヨも、優しく中性的なイケメンである双葉フタバも、双葉というひとつの存在なのだ。


 自らのふーっと言うため息の音が聴こえた。音のある生活にも随分慣れたものだ。


 つんつん、と唇を指でつつく。唇がなにかに当たって圧迫される感覚を確かめる。


 高校生になったら、そういうことしてもいい年頃なのかな。


 なんて。

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