-39度 とうそうのスエオ2

「困ったべ、人のいないところがわからないべ。」


 スエオはスラム街を走って逃げていた。

 目立つところでは駄目なのだ。

 この説教男をどうにかするのであれば、人目のつかないところへ行かなければならない。

 説教男に限らず、他の人間の気配もわからなくなっていたスエオはひたすら走り続けた。


「……ここなら大丈夫そうだべ。」


 スラムの奥から少し外れたゴミ捨て場のような場所。

 物陰が多く、視線を切るには都合もいい。


「変装オフだべ。」


 ――認識改変を停止します――


 頭の中に響く無機質な声と同時に、スエオは近くにあった木製の粗大ゴミを掴んだ。


「よし、べ。」


 先ほどまでが嘘のように、しっかりと力が入り持ち上がる。

 やはりあの説教男が原因だったのは間違いないようだ。


「驚いた、俺の鑑定を誤魔化すのもおかしいと思ったが、まさかオークだったとは。

 何でこんなところに潜り込んだのか、事情を聞かせて貰おうか。」


 スエオの背後には説教男。

 今度はちゃんと


「前に言った事は嘘じゃ無いベ。

 おではくぅるなオークを目指して旅をしてるだけのオークだべ。」


 そう言いながら、持っていた粗大ゴミで説教男の右ストレートを防ぐスエオ。


「さっきとはまるで大違いだな。

 それがお前の本気ってやつか!」


 そのまま流れるように続く右ハイキックで粗大ゴミを砕く説教男。

 破片をバックステップで避け、距離をとるスエオ。

 スエオの力は完全に戻っていた。


「単に魔法を一個切っただけだべ!

 これがおでの普通だべよ普通!」


 スエオの力が出なかった理由は簡単だ。

 小さい頃から厨二病、無意識に魔力を練っていたスエオは自前の筋力というものがほとんど無かった。

 師匠から受けた特訓で多少は改善されたものの、魔力を伴わない筋力は人並み以下のスエオである。


「魔力強化がデフォルトとかどんな魔力バカだよこの野郎!

 ちょっとのケガぐらいは覚悟しろよっ!」


 説教男は短剣を抜くとスエオに向かって突進する。

 スエオはゴミの山から角材を引っこ抜くと、それを木剣代わりに構えて対峙した。

 説教男は地面スレスレへと潜り込むように接近するが、スエオのゴルフスイングのような攻撃を短剣で受け止め、衝撃で体が浮き上がり立ち上がってしまう。


「そんな攻撃対応できなければ師匠に120回ぐらい殺されてるべ!!」


 そのままスエオは一回転し、説教男の胴を薙ぎ払……おうとしたのだが、またもや短剣に防がれる。


「なかなかやるなこのクソ豚がっ!」


 スエオの攻撃の衝撃をそのまま生かし、後ろへと飛びながら距離をとる説教男。

 宙で一回転しながら着地を決めると、そのまま再び低い姿勢で飛び込んで来た。


「その口の悪いのが本性だべか?」


 再び下段攻撃を行うが、直前に横跳びで進路を変更する説教男。

 そしてそのまま稲妻のようにスエオへと近づくが、その時にはスエオは飛び上がってゴミの山を蹴ると、そのまま横へと移動し回避した。



 果たしてこの作者にこれ以上のバトルシーンは書けるのだろうか。

 戦いは続く。

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