-21度 お洒落のスエオ

 スエオは今日もゴブリ……ワイルドボアを狩ってきた。

 リュックのような背負い袋を手に入れたため、フォレストリザ……ワイルドボアの二匹目を手に持って帰っている。


「やっぱりこのリュックってやつは便利だべ。

 両手があくから、持てる数が増えるのは嬉しいべなあ。」


 今日も偽装ワイルドボアを持ち込むスエオ。

 これで毛皮や肉としての品質が悪ければ完全にアウトである。


「リュックさ前にも付けたら、防具替わりにもなるしもう一匹いけそうだべ。」


 安易なことを考えながら、スエオは村へと戻ると、いつものようにギルドとボンブの店を回るのだった。



 超絶猫かぶり下品毒舌思い込み残念騒音公害暴力腐女騎士は、上から見捨てられたらしくそのまま牢屋に入れておけとのお達しが来たそうだ。


「あの女がずっとここにいたら、おではどうしたら良いんだべ!

 うるさくて眠れないだべよ!」


 必死の形相でギアテに詰め寄るスエオ。

 しかし、ギアテは一言喋っただけだった。


「殴れ」


 こうしてスエオは自分の部屋牢屋に戻る前に、超絶猫かぶり下品毒舌思い込み残念騒音公害暴力見捨てられ腐女騎士を眠らせるぶん殴る事で快適な生活を続けらる事となった。


 最近ではほぼ毎日二体のワイルドボアを持ち帰っており、装備もそれなりに揃ってきた。

 黒のローブに黒の皮鎧、染められなかった鉄の胸当てだけが傷だらけの鈍い光を反射していた。


 ギアテと訓練したり、ボンブの出した店に行ったり、村の男たちと騒いだり、楽しい毎日だった。


 ……ちなみに女性は全然近寄ってこなかった。



 そんな平和な毎日に、スエオはあることを思い出した。


「そう言えば、おで、くぅるな男になる旅の途中だったベ!」


 スエオの目標は、ローブで身を隠しながら旅を続け、困った事があればサクッと解決して、名前も名乗らず次へ向かうような。

 そんなありきたりの小説に出て来るような主人公だった。


 ここまで馴れ合いが進むと、流石にクールな男としての態度には戻せない。

 名乗らず消えるどころか、名乗る前から名前を知られているのである。

 最近では詰め所のそばに住むおばあさんから、果物のお裾分けまで貰う始末である。

 多めに狩ってきた肉で返し、ご近所(?)付き合いまで始まってしまっている。


「えーっと……くぅるってどんなんだったっぺ?

 魔術的な入れ墨とかも右手の封印に必要だべかな?」


 もはや方向性を見失いかけていたスエオは、入れ墨なんかはクールかも知れないと少ない脳みそで考えると、とりあえずご飯でも食べながらボンブに聞こうと店へ向かった。


「入れ墨ですか?

 家畜用の焼き印ならありますが、入れ墨となるとちょっと……」


 さらっと失礼なことを言うボンブ。


「焼き印だべか……あれ熱い上に、回復魔法で消えちゃうだべよ。」


 とりあえず焼き印をしようかと本気で悩む経験者らしきスエオ。

 別にボンブは失礼じゃ無かったようだ。


「おいおい焼き印はないだろ焼き印は。」


 聞いていられなかったのか、近くで食事していた男がスエオに話しかける。

 がっしりしてヒゲの生えた、ドワーフのような男だった。


「魔物の皮用の染料はあるし、古代語も少しは知ってる。

 お前さんの皮に入れ墨入れるなら、やってやってもいいぞ?

 生の皮加工なんて滅多に出来ないしな。」


 そう言って笑う男。

 古代語とやらに引かれたスエオは、早速頼むことにした。

 スエオの回復魔法なら取り返しが付くからだ。

 代金は満腹スープ十杯でいいとの事なので、ボンブにお金を支払っておいた。


「凄くくぅるって意味の古代語を入れて欲しいだ。」




【極寒】



 文字の意味がおかしいことに気付くのは、ずっと後の事だった。

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