-9度 ダサダサのスエオ

 ギアテは当初警戒を続けていた。

 貴族の渡す木札を持ってはいたものの、よく見てみると近くの領主の騎士団の焼き印があるだけで、個人が保証している訳では無い。


 通常なら個人名の入ってない木札は、出入りの商人でも貰えるレベルだ。

 これをオークが持っていたところで、正直人間の旅人程度の信用しか無いだろう。


 そう思いつつも、スエオから話を聞くとどうやら貴族の命を助けたとの事。

 本人は盗賊を蹴散らして、塞がれた道を片付けただけだと言っていたが同じ事だ。


 自身がドワーフであり、国によっては差別も受ける種族であるギアテは同情した。

 技術や職人を尊ぶリリーランドでは、薬師や狩人として優秀なエルフや、鍛治士や炭鉱夫として優秀なドワーフの差別は無い。

 しかし力が強いだけの獣人には多少の差別が有り、オークにいたってはもはや魔物だ。


「キサマが差別なく暮らすには、ブロッサムリバー皇国しかない。

 しかしあそこはかなり遠く、順調に進んでもたどり着くまでに二年はかかる。

 その前にこの村で人の常識を覚えていくのが良いだろう。」


 腰みのから生成りの貫頭衣かんとういに着替えるスエオに向かって説明を続ける。

 布の真ん中に穴を開けただけの粗末な貫頭衣を着たスエオは、まるで奴隷のようにしか見えなかった。

 下でチラチラ見えそうになるのもよろしくない。

 しかし、ここの村には体格の良いオークに合うサイズの服など無く、フリーサイズの物しか無いのだ。


 もう一枚渡された麻布を腰に巻くと、しばし考えたスエオは、結び目を外した腰みのと持っていた猪の毛皮を組み合わせた。


 毛皮は腹側から綺麗に手足の先まで開かれており、穴一つ無い物だった。

 魔法で作り替えられた品なので、なめしてもいないのに柔らかく腐らない一品である。


 その毛皮の足を右前と右後、左前と左後で結び、帯状の腰みのをそれぞれに結びつけた。

 やたらフサフサしたショルダーバッグの完成である。

 ちなみにバッグの蓋替わりには、猪の顔部分の皮がそのまま使われており、尻尾を鼻に通して固定する方式だ。


「おされなバッグの完成だべ!」


「最初に教える常識として言わせてくれ。その呪われそうなバッグはやめた方が良い。」


 どう見てもそのバッグは、骸骨をアクセサリーにするような呪術師とかが好んで使いそうな物だった。


「そげな……くぅるで格好いいでねえべか!」


 やっぱりスエオはクールと厨二病を混同していた。


「オークと人族ではこんなにも美的感覚が違うのか……」


 そしてここに新たな誤解が生まれた模様。


「と、とにかく人の村や町を行くのに、そんな怪しい格好じゃダメだ!

 ただでさえオークなんだから、少しはこぎれいな格好しないと討伐されかねないぞ!」


 ションボリするスエオに多少心を痛めつつも、説得するギアテ。

 このまま村に出したらパニックが起こってしまうのでは無かろうか。


「と、とりあえずその毛皮は売り払って、普通の荷物入れでも買う方が良いだろう。

 加工賃分サイズは目減りするが仕方ない。

 麻袋で良ければもっと大きいのも買えるだろうし、他の物も買えるかもな。」


 ギアテがそう言うと、スエオは大人しく従うことにした。

 本人がいくらクールだと思っていても、人から不審者扱いされるとまともに旅なんて出来ないのだ。

 この際多少の妥協はしないと、旅も出来ずに野垂れ死にしかねない。

 衣食足りて礼節を知る、趣味も生活基盤が確立してからじゃないと無理な話なのだ。


「理解したようだな、それでは村を案内しよう。」


 ギアテがそう言うと同時に、スエオの頭からフードのような物を被せた。

 スエオが一番不審者として見なされるであろう特徴は、やはりその卑猥な笑顔だと思っていても言えないギアテだった。

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