[短編(市場)]寝過ごす知らせに

 生ぬるい感触が首筋をなぞり、残された湿り気は、あっという間に熱を奪い始める。

「……」

 真っ暗な、ゴトゴトと絶え間なく揺れ続ける室内では、それに紛れて規則正しい息づかいだけが聞こえる。

 フンフンという鼻息が聞こえて、起きた、ということを伝えるためにその鼻先に触れてやる。すると、もう一度ぬるい空気を吹き掛けてきてから、離れる。

 なるほど、夜に移動するっていうのは、身体に堪えるな。足として有効活用できるかどうか、試しに乗ってみたが、これなら夜営をする方がましだ。安全に眠れる、というメリットとこの痛みを天秤にかけるのなら……夜営だな。こんなとこじゃ自由に剣を振るえもしない。

 それに、この暗がりに紛れて画策しているやつがいないとも限らない。シェーシャも早くに目が覚めたらしいが、こんな暗くてはかなわない。

 明かりを灯せばガスが充満して死にかねない。かといって窓があれば、外から何を投げ込まれるか分かったものではない。もちろん、目的地に近づいているのか、ということも。

 もしそんなことがあれば、こんなにも利用客がいるはずもないか。多くが商人、信用してなければ使うこともないだろう。

 シェーシャは何をしているんだろうか。こう暗くては、何をしているのか分からないな。さっさと、次の場所で身体を伸ばしたいもんだ。

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