[短編(市場)]かつての得物
店に突如として訪れた二人に、散々意味のない弁明をした後、そんなことより、と少年は振り返ってギルを見上げる。
「オレに渡したいってのは、何?」
期待の眼差しに怯むでもなく、ああ、と彼はまた、奥へと引っ込んでしまう。くすくすと笑っている師匠二人に、ドラゴンの国の王様が遊びに来てるんだ、と雑談を始める。
ギルはといえば、店の裏口こと、居住スペース兼工房の、普段は手にもつけない天井近くにつけられた棚から、荷物を下ろす。
「落とすなよ。手入れもしてないから、ポッキリいくかもしれん」
身の丈近くはある布に巻かれたそれを受け取って、よろめくことなく床に下ろすと、解いてみろ、と促される。
紐をほどくのに苦戦していれば、切ってしまえ、とギルはどこからか取り出した短剣で遠慮なく断つ。紐なんていくらでもある、とどこかそわそわしている彼の前に現れたのは、鈍く輝く、幅広の剣である。
「持てるようになったか? お前がよければ、これを使え。怪我だけはするなよ」
傭兵時代の遺物は、手入れこそ怠った形跡があるものの、少年の見覚えあるものと、全く同じで。
「……」
息を飲むくらいに、震える手で、柄に手を伸ばす。
「……」
力を込めて、全身で持ち上げようと足を開く。だがそれは、ギルが師匠たちから自立したとき、世話になった人から貰ったもの。
どうにか、よろめきながらも持ち上げることには成功した。ぷるぷると震える手に、表情に、余裕は一切ない。
「……まだ早かったか? ほら、下ろせ。おまえにやろうとは思っていたが、まだ早いな。ちゃんと、鍛えてるか?」
振るうこともできず、父の手にとられる大剣をじっと眺める子に、それなら、と首をかしげるギルは、悶々と悩み始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます