[短編(市場)]相すクリーム
「なんだ、移住者だったのかい」
大きな体躯の黒犬は、バランスをとっているレノ、と呼ばれたアイスクリーム泥棒を背中に乗せながら、けらけらと笑った。
「何よ。何で笑うのよ」
初対面でそんなふうに扱われるのは、癪だった。
「いいやぁ、レノが人質として捕まらなくて、よかったってだけさ。市場の新人なら、安心だって思ったのさ」
親子、じゃないだろう。犬と猫で、猫はクチナシかもしれないけど、見る限り、猫は犬を信頼しているらしい。
「で、あんた、アイスクリーム、レノにあげたろ?」
けらけら。
「お礼に、好きなの奢ってあげるよ」
体側につけられていた荷物に鼻先をつっこんで、器用に引っ張り出したのは革袋。ジャリ、と音をならして地面に落ちた。
「それ持って、好きなの買いなよ。私のことは気にしなくていいさ。お礼をしたいだけだからね」
試しにそれを持ち上げてみれば、ずっしりと重い。多分、これまで持ったことのない重さ。
「……じゃあ、三つ、買っていい?」
とても馬鹿な質問。一つあげたのに三つを求めるがめつさ。
「かまわないよ。アイスクリームなんて、いくらでも買えるしねぇ」
相変わらず笑い続ける黒犬。おおらかなやつなんだな、と思ったけど、
「でも、一つにしといとくれよ。この後、レノを捕まえてくれたお礼もしたいしねぇ」
それは、本当にたまたまの偶然だったのだけれど。アイスクリームを欲しそうにしてたから、欲しいのかなって思っただけなんだけど。
結局、別の味のアイスクリームを、一つだけ。袋を返せば、がめついねぇ、と犬は笑う。
「レノは、わたしの子どもみたいなもんでね。どっか行っちまったから、見つからなくて、途方にくれてたんだ」
あ、そういえば何て言うんだろう、この獣は。
「拾いもんだけどね。まぁ、細かいことは詮索しないでおくれよ、これから招待したげるからさ」
甘さと酸っぱさを感じながら、
「大きい声じゃ言えないけどね、私はヴィーク。好きに呼んでくれたらいいさ」
ついておいでよ、と彼女はてこてこと歩き始めた。
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