[ネタ]ここにはない死生観

※死について触れています


「あんたって、何人くらい斬ったことあるの?」

 ラクリが尋ねると、ギルは無表情に、なんだ突然、と視線をそらす。

「この前ね、本を読んだの。小説なんだけど、私は死んで、初めて認められるんだ、なんていうフレーズで締め括られててね」

 二人は泉で相対していて、シェーシャは水浴びに勤しんで、リエードは彼女を監視していた。

「……覚えてないな。数えてられない数ってことは、確かだ」

 それに贖罪を覚えるか、と聞けば、いいや、と否定する。

「俺が斬らなかったら、感じることもできないだろう。それに、それで何が変わるんだ?」

 っていうと、とラクリが促す。

「死んでいったやつらに、申し訳ないと思ったから、どうなるんだ? 殺した事実がなくなって、俺に復讐を誓う奴らが、剣を下ろしてくれるのか?」

 そんなわけがないだろう、とカップをあおる。

「あのとき、斬られたのが俺で、俺が死んでいたとしても、誰も俺を想ってはくれなかっただろ。そんな不公平のために、なんで俺が死ななきゃならん」

 ギルには、すでに恋人がいて、師匠がいて、こうした話し相手がいて。

「今は、どうだろうな」

 それは一朝一夕でできたものではない。

「そ。バカなことを聞いたわね。お詫びに、何か奢ろうかしら」

 そう、メニューを開いてみるも、ギルがそれを奪い取る。

「俺に選ばせろ。シェーシャの分も、かまわないな?」

 有無を言わせぬ手際で店員を呼びつけた彼は立ち上がり、シェーシャたちのもとへと歩きだした。

「……あれって高いやつ……」

 どうしよう、と眉を寄せるラクリを置き去りにして。


◆◆◆◆


 死にたいする恐怖というものは本能的なものとして、では死というものは、どういったものであるのか? その世界ではどういうものなのかを作り込むのって難しい気がします。


 というのも、死とは何か、という定義をまずは行わねばなりません。生の対義語としてではなく、状態として、どういうものなのか。

 例えば、来世へのアクセスの一端として見ることもできますし、悪魔に生命を刈られた結果、はたまた役目を果たした存在、なんてものとしても見ることができます。

 つまり、それは死生観です。


 これらがあるということは、救いを求める宗教があるでしょうし、それが当たり前であるという隔絶された村もあるはず。

 考える、思想というものは、伝染し、広がるものです。

 これは、人間のようなものたちが編み出した妄想であり、真実で、狂気。ここまで作り込めると、どんなものができるんでしょうねぇ。

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