[短編(オリ)]魔職は俺の転職でした

 宿を求めて混んでくる屋内。このギルド所属ならば格安で泊まれるというのだから、人が集まらないはずがない。

 ところが、誰も彼も、指定された一室へ向かう途中、ぎょっと目を見開いて立ち止まる。そこから忍び足になって、階段を上っていく。

 階段の前には、魔物と呼ばれるものがいた。

 およそ人の形をしていて、身なりも一般的なもの。だが露出している部分に肌はなく、てらてらと輝く鱗があり、見開かれているその瞳孔は縦方向に細長く割れている。

 すぐに抜けるようにか、柄に指をかけて、まるで威圧するように。時折、ぎょろりと動く目は、ちらりと様子を伺う者たちを威嚇する。だがこれといった問題もなく、人はまばらになっていく。

 と、上階が騒がしくなり初める一方で、しんと静まり返る受付は、魔物と受付をしていた女性だけとなった。

 深夜に尋ねてくる者もいるので、閉めるわけにはいかないし、書類のあれこれも残っている。それでも暇な時間というのは生まれるもので、

「今日も一日、お疲れさまでした」

 筆を置いた受付が口にする。

「……ここで、待っているだけで金がもらえるなんて、なんて楽な仕事だ」

 応じたのは、間違いなく魔物だ。

「モンスター職、なんて初めは驚きましたけど、普通の人ですよね、あなた」

 立ち上がって表に出てきた受付は、表に置いてある椅子に腰かけ、微動だにしない魔物を見つめる。

「そりゃ、なり以外は人間だしな。知名度も上がってきたとはいえ、まだ肩身は狭いだけの、人間だ」

 あらゆることに適正のない人間というのは、必ず存在するものである。

 攻撃性の魔法しかり、回復系の魔法しかり、武器の扱いしかり。才覚がないと烙印を押されたとしても、その身を賭けてでも一攫千金を諦めきれない者たちに割り当てられるもの。

 魔物職。

 貧弱な素養を捨て去り、人類の驚異である魔物の肉体を得るという、倫理的にもあるべきではない職業。

「でも、まだ魔物と勘違いされて攻撃されるって言われるわけですから、まだまだ浸透するにはかかりそうですね」

 だが夢を求めるあまり、委ねてしまう者がいる。

「ああ、しばらくはこうして、稼がせてもらおう」

 彼もまた、その一人であった。


◆◆◆◆


 職業系のあれこれって、某RPGが絶対に影響してますよね。いや、得意を伸ばして結果、それになるならまだしも、職がきてから得意になるという矛盾……あくまでゲームですからね。


 で、その某RPGにはモンスター職なんてものがありましたね。熟練度を最大にするとフィールド上ではその姿になるとかありましたね。

 いや、でもそれで身をやつすのもいいよなぁ、とか思ってしまって、こんなものを書きました。

 土台を作るのは大変そうですけれども

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