[短編(オリ)]人間辞めたらどうなるやら

「人間辞めたいわー」

 ふと呟かれる言葉は、現実味など持ち合わせていない。

「辞めるなら、何になるの」

 あくまでも想像であり、妄想の話。そこにリアリティなんてものは不要であり、小さいながらも翼を広げるのだ。

「えー、犬、とか猫。鳥はいいかなぁ」

 身近にいる彼らを挙げてみるが、その言葉はふわふわとしていて、やはりその肉体は人間のままだ。

「なんだ、つまんない」

 そんなの、身近な隣人への憧れじゃないか。甘えられて、食事を用意してもらって、遊んで、疲れたら眠って、ごろごろする。

「つまんないって、なんで。飼い犬、飼い猫、いいじゃん」

 もちろん、個人の希望を否定するわけではない。鳥は飛べるかもしれないけど、しんどそうだと思うのも、全くもって、想像の上では自由なのだから。

「自分が辞めるなら、えーっと、なんて言えばいいんだろ」

 そう、自由。

 今見えているもの、そこに隠れているもの、もしかすれば、一歩進めば見えるかもしれないもの。

 それらでなくても、いいのである。

「なに、言えないの? まさか、太陽とか月とか言ったりする?」

 にやりと笑われて、そうではないと。だが形容するには、いささか語彙が足りない。

 ならばと取り出したメモ帳にガリガリとペンを走らせて、こんなのになりたい、と見せつけた。

 だが、ぐちゃぐちゃの線の成すものを見てくすりと笑われ、はっとする。今ここにいる自身を捨て、どうしてこのような誰かになりたいと、見せてしまったのか。

 人の皮の下を、自ら見せてしまったようで顔が熱くなる。

「やっぱりなし。なしだから」

 そう口走ったら、はいはい、といつものような景色が戻ってくる。


◆◆◆◆


 人間辞めたいですねぇ。辞めたらどうするかって、そりゃ、理性のしがらみから外れた生活をしたいって思うわけですよ。


 と、私に潜む願望はさておき、最近はメタバースなんて言葉がよく出てきますね。ぶっちゃけ、ゲームのワールド、仮想世界がそれらにあたるわけですが、そこで自身の理想像を作ることができたとして、さて、あなたはどうするのでしょうか。

 自身の思うカッコイイを反映できた。だからどうしたいのでしょう。かわいいキャラになれて、かわいいと言われた。だからどうしたいのでしょう?

 単に流行っているからとわいわいするのは、問題ないと言えばないのですが、そこから先のことを意識していたりするでしょうか。


 姿を得られた、その先。外見が変わっても、自身は自身であることに変わりないのですから、その先へと進まないといけません。

 もちろん、モデリングツールを使いこなすようになってもいいですし、できることを増やしてもいいでしょう。

 ただ、どこかで終わらせることだけは止めておくべきなんでしょう。もっとできることなどが、あることは間違いないのですから。

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