[短編(オリ)]起きてる……?

 夜。あたりに響いていた轟音も、昼と比べると少なくなるが、それでも戦場という舞台では、いつ敵が現れるのかは分からない。すなわち、休みをとらなければならないときは、見張りが必要となる。

 その当番をこなしていた狐の獸人、シールは瞬きが増えていることにも気づかずに、拠点となっているテントへと歩きだした。

「カガチ、そろそろ交代してよ」

 もうじき夜半。夕餉を終えてから、ずっと立ち尽くしていた彼女は男たちの眠るテントに問いかけた。

 だが返事はなく、待てども身動ぎ一つ聞こえない。しびれを切らして、入り口を開けてみれば、一番手前に大蛇の胴が横たわっているのが見えた。

「カガチ?」

 もう一度、彼の名を呼ぶ。返事はない。

 あきれた様子でシールは腰につけていた明かりを絞って、蛇の胴に当てる。そして頭部の方へと辿っていき、彼の服、機械の腕と見えてくる。

 ところが、悲鳴が木霊する。

 狐が数歩距離をとれば、どうしたの、と鳥の獸が空から舞い降りる。彼女、ベニリアはシールに駆け寄ると同時に、テントからぬらりと蛇が顔を出す。

「なんじゃ、うるさい」

 刀を引き抜きながら、安眠妨害じゃ、と二人の姿しかないことを認めると、彼はどうしたのかと得物を納める。

「えっと、カガチ。起きてた?」

 長い身体をするすると動かして這い出る彼は、いいや、と首をふる。

「寝ておったよ。何に怯えとるんじゃ、シール」

 どうにも自身に怯えているようだと感じ取った蛇は近づくこともせずに、次の言葉を待つ。

「えぇーっと……目が……」

 はて。カガチが思案素振りを見せるが、

「さては、瞼がないことに腰を抜かしたか? それは愉快なもんじゃ」

 無表情ながらも、にやりとしているような言葉で。

「蛇にはないもんじゃ。目を開けたまま眠る。この身体になったばかりは焦ったが、すぐになれたもんじゃ」

 カァーッと大口を開けて見せる彼に後ずさるシールとベニリアは、しかし逃げるには至らない。

「アイマスクでも、寝るときはつけておこうかのぅ? アクロも大層驚いておったが、そこまではならんかった」

 蛇が移動して、彼女に手をさしのべる。一言だけ謝罪して、用件はなんじゃと尋ねた。


◆◆◆◆


 蛇、というか瞼のない生物って常に目を開いていますが、夜とかに寝るは寝るんですよね。

 どういう感じなんでしょう? 光は感じているそうなので、夜、ということは理解しているのでしょうけれど。

 それが人間サイズともなれば、怖いでしょうねぇ。顎が外れてクアーッてなるかもしれないと思うと、ゾクゾクします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る