[短編(市場)]ワリとつければ美味しいのかも

 冷たい風の吹きすさぶお昼時、者どもはそそくさと、うなる腹の猛獣を飼い慣らすために屋内へと逃げ込む。

「エールの蜜割りと……」

 どうにか席にありつけたラクリたちは、いかにも忙しそうな店員を捕まえて注文を済ませる。その正面にはリエードもおり、彼が選ぶものは、メニューを見る以前から決まっている。

「僕は生で!」

 生とはいっても酒ではない。彼が好むのは生肉か揚げ物の二択。彼のいた群れではフライにする文化はないはずだが、市場にてその魅力に酔いしれているのだという。

「で、なんだよ、エール蜜割りって」

 そそくさと退散する店員を尻目に、顎をテーブルに乗せる彼は聞いたことないよ、と。

「エールならどこでも売ってるでしょ? それだけだとまずいから、お湯と蜜を入れると甘くなっておいしいのよ」

 首をかしげながら本を取り出すラクリだが、

「なんだよその裏メニュー。うちでは酒すらも置いてないのに、変なもの開拓しちゃってさぁー」

 いかにもありえない、と訴えかける視線を向けられてもびくともしない。

「というか、やるなら高級なやつの水割りとか、ソーダ割りだろ。蜜割りとか初めて聞いたよ。あの人もきょとんとしてたし」

 でも想像つくでしょ、と文字を深紅の瞳が文字を追う。

「じゃあ今度、つくってあげるよ。お酒と蜜、一対一で」

 にやりとする青年にラクリは、それは止めなさい、甘すぎるから、と睨み付けた。


◆◆◆◆


 飲み物を何かで割るってよくやりませんか? よく耳にするのは、お酒を水なり炭酸なりで割るとかですね。

 飲まないので酒の味は分かりませんが、そのままだと喉にダイレクトアタックしてくるコーラを水割りしたことはあります。甘さと炭酸がちょうどよくなるんですよね。

 最近は果実酢とお茶、炭酸を同じ程度で割ったりしています。お茶の香りは飛んでいますが、なかなか刺激的でいい香りがするんですね。


 それで、じゃあなんで割るのかっていえば、ちょうどいいから、なんですよね。もちろん個人の好みによるものが大きいですが、味がきついから薄める、刺激が強いから和らげる、と。

 飲み物に限らず調味においてもそうですが、こればかりは割ったりできるものではないですからね。混ぜて融合させることしかできません。

 だから「割る」という表現ができたのかもしれませんね。どちらも「混ぜて」いるのには変わらないのに。

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