[短編(市場)]行方くらませたる者2

 しんと静まり返る闇の中、カンテラを掲げながら、数多の者の踏みしめられ続けたのであろう道を歩いていく、髭面の男。

 ちらほらと明かりの見える村を、一巡、二巡とした後、異常なし、と呟くと、自宅へと戻った。

 帰ったぞ、とトートが口にすれば、おう、と片足のないカラスが本を開いていた。寝床に座るレヴトはもう寝るか、と尋ねるが、彼はもう少し仕事をすると言って、火をつけたままのカンテラを持ち運び、机においた。

 机の上には、できかけの農具。あとは持ち手を磨いてささくれを除くだけのもので、やすりを持って擦り始める。

「トート、市場に行こうっつったら、なんて言う?」

 シャコシャコという軽い音。

「なんだ? 囚人にでもなって生活しようって話か?」

 そうじゃない、と本が閉じられた。

 渓谷に戻ったとしても、成果もなしに帰還したことを咎められ、処刑されるくらいなら、それ以外の選択肢のありうる市場で、隠れて過ごすか、刑罰を受けて堂々と過ごすかをした方が、いいのではないか、というものだった。

「……あの紅竜はまだしも、世界樹に、俺たちは顔を覚えられたろ」

 彼らはあの日、現れた紅竜と戦闘し、敗北した。

「俺たちに危害を加えることはないだろうが、何が起こるかも分からんなら、田舎にいた方が安全だと、思う」

 そして、自分達が魔法生物、過去の人間たちが作り出した、生物を模したものであるという話を聞かされて、レヴトは、おそらく好奇心で足を奪われた。

 その瞬間、彼を害した存在は世界樹の根によって破壊される。加えて、ゆっくりと浮かぶ枝が道標となり、彼らを外へと導いた。

 得たいの知れないもの。それに警戒を怠る理由などないのだ。

「……足があれば、また違ったんだろうなぁ」

 くりくりとした目が、じっと寝床を見下ろす。

「そうだろうな」

 トートは農具の柄を一通りさわると、それを下ろして自身の寝床へ。

 間もなく、明かりが消える。


◆◆◆◆


 二人は同居してそうです。二人とも同じ境遇といえば、そうですからね。

 でもこうしたのは遺産ですが、拘束してたのはラクリさんなんだよなぁ、とかとか。

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