[日記]手付かずの

 今日はずいぶんと、眩しいくらいの空模様。予報いわく、どこかで曇りになるというが、ならば雨は降らないということだろうか。いや、どうだろう。梅雨のことだ、湿った空気が滝登りがごとく空へと流れ、肥大化した水滴が、傘もたぬ者たちを蹂躙することを待ち望んでいるかもしれない。

 さぁ、みなさん。今日は快晴ですよ。傘なんて持たず、どうぞ楽しんでください(にやり)。

 そんな根も葉もない噂をしながら、さて今日はどれを着ていこうか。暑くなることは間違いないから、薄手一択でこそあるのだが、生憎私は夏でも長袖を着る。暑くても隠したいものがあるだけだが、まぁ暑い。おかげで蚊にくわれにくい、というメリットもあるのだが。

 ともすれば、ひとつの上着が目にはいる。冬物に押し潰された、よく視界の隅に居座る、取り出しづらそうな服だ。

 よく見れば薄手だ。上のものを持ち上げて、引っ張り出す。ズズズ、とココニイタイ、という意地の感触を感じながら宙ぶらりんになると、ぷらぷらとぶら下がるものが。

 もちろん袖ではない。裾でも。胸の辺りから重力に引かれている長方形の厚紙。そう、商品であることを示す、タグだ。

 おおう、買ってから着てなかったのか。

 記憶を遡れば、去年か、もしかすると一昨年か。虫食いなどはないため、損はしなかったということで、大変喜ばしいことだが、同時に申し訳ない気持ちになる。

 そもそも、私の生活では、服はちょくちょくと買うものではない。くたびれてきたなぁ、というものがあれば、代わりのものをそろそろ調達しよう、となる。結果、くたびれたものを処分するまで、新しいものを着ない、ということもまちまち。

 その被害者が、この子だった、というわけだ。もしかすると、他にもあるかもしれない、と思うと、しんどいなぁ、と息をつきたくなる。

 もちろん衣服を置く場所は決めている。夏服、冬服、ごっちゃにはなっているが、これを整理するのは億劫だ。

 着てない新品を探す上ではいいかもしれないが、問題は収納スペースは一定にも関わらず、その体積に差がありすぎるのだ。

 同じ場所に、夏服は簡単に片付けられて、冬服はみっちりと詰め込まなければならない。これに四苦八苦するのは、私だけだろうか。

 おっと、そんなことを考えていたら出掛ける時間だ。

 ハサミを取って、ようやく彼と私の契約を成立させる。今日からよろしく。

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