[短編(オリ)]オニビとカガリビ
鈴虫うるさい夜が明け、ようやく寝付けるさぁ寝よう。そう考えておりましたのに、聞こえてくるのは、がやがや集まる人の気配。
重い身体をおいしょと起こして、ぶるぷる震える脚にて立つのも面倒。床を這うて、なんだなんだと外を見るや、案の定、人がいるわいるわ。
なんだ事件か、身体起こして、上より渦中の誰かを見ようとし、いるのはどこぞの知らぬ若人らしい。どうやら腰を抜かしているらしく、そうとしか言いようがない。
わめくわめくその言い分、昨晩、通いの帰りに、ここで青い鬼火を見たんだと。しかもひとつではなく二つに挟まれ、あわや命はないと死んだふり。起きれば囲まれこのありさま、とのこと。
どうにもばかにしている野次馬に、本当だといくら叫ぼうと、聞く耳持たんのが野次馬よ。いくらかすれば呆ける若人、息をついて歩いてく。
青の鬼火、それはきっと鬼火に違いねぇ。とはいっても、鬼火を垂らす怪物も世にいるというんだから、鬼ではない可能性も捨てきれんのが、また恐ろしい。
なんでも、それはオニビグモといって、なんだこれはと近づいたやつを、捕まえて食っちまう。若人の見たやつは、本当の鬼火だったのだろう。
同じく火を使って獲物を探すやつなんてのもいるもんで、そっちはカガリビグモ。こっちはオニビの方とは違って、地面をわしわしと歩きながら、火を空に向けとるんだと。
近寄ってきたら脚をはねてからむしゃむしゃと食うんだから、どっちも恐ろしいこった。
とはいっても、そうそう会えないから怪物と呼ばれとる以上、夢でも見てたんだろうと思うのが一番、気楽なもんだ。それに、死人に口なし、襲われたやつはどこにもいたと証言できんのだ。
さてもう一度寝直そうかと布団の方に向き直れば、そこにはパチパチとも鳴らん炎が上がっとる。
「オニビや、部屋んなかで焚くでない」
すると鬼火はするすると天井へ登って、梁の上に消えてもうた。そこにある影は、八つの目でじっとこちらを覗き込んどる。
「狩するときゃ、もっと用心せぇ」
それに言葉が通じておるのか分からんが、まぁ寝直すとしよう。
◆◆◆◆
オニビグモという妖怪的なものを思い付きまして。どうやって点けたか分からない炎を使って狩りをする蜘蛛で、亜種はカガリビグモ。
妖怪なんで概念的な存在ですが、ネタとしてはいい不気味さなのではないでしょうか。
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