[短編(市場)]花より昼寝

 春と呼ばれている、暑すぎず、かといって寒すぎない地域の一角に、二人の姿はあった。

 足元に咲き乱れる、背の低い花々ひとつひとつに興味を示している山飛竜と、進行方向周辺に、何もいないことを確認し続けている、軽装の土竜である。

 どこかに腰を下ろし、ゆっくりと呼吸をしていると、いつの間にか寝入ってしまうだろう陽気。眠気に現を抜かす者の姿も遠目に見えるが、土竜は目を細めるばかりで、ふらふらとどこかへと行ってしまいそうな彼女に声をかける。

「シェーシャ、そろそろ休むぞ」

 ちょうど、花々が席を空けている木の根元。そこに何も敷かずに座り込んだ土竜は、ふわふわと尻尾を揺らす彼女に、もう一度声をかけた。

 すると間の抜けた声と共にのしのしと彼のもとへ。

「いい匂いがするよ、ギル」

 花びらを口元につけながら鼻を鳴らす。知ってる、と答えれば、彼女もまた大きな体を小さくする。

「噂には聞いていたが、ここまで幻想的な景色とはな」

 彼らがここへと向かった理由は、出立地の宿を出る際にオプションとして、情報をもらったのだった。もちろん、ギルは渋ったのだが、ゆらりと首を伸ばしたシェーシャが絶景を見たいのだと言い始めたのだ。

 結果として、この花畑に囲まれているわけだが、感動の一言につきる。だがそれ以上に、

「眠いな……」

 ぽかぽかとした陽気は、目蓋をぎりぎりと閉じようとする。眉間を震わせ眠気と戦うギルをよそに、木陰に頭をつっこんだシェーシャはグゥグゥと寝息をたてていた。


◆◆◆◆


 桜などが咲いてきましたね。また今年も、同じ場所で春を迎えてしまいます。


 さて、春眠暁を覚えず。去年も言ったような気がしますが、眠いですね。あと花粉が意識を混濁させてきます。

 去れ。春は芽吹く景色だけ見れればそれだけで十分なんだ。

 今年も花見はできないでしょうけれど、会を催さずとも愛でることはできるでしょう。

 ベランダから外を見渡せば、ありませんか? 誰が管理しているか分からないまでも、日に日に大きくなっている蕾が。

 毎日、通りがかりに観察するだけでも、春らしさを感じます。もうすぐそこですねぇ。

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