[短編(市場)]かまって、かまって

 住宅と化している倉庫のなかで、ベッドに寝転がりながら雑誌をめくる土竜の青年の姿があった。

 頬杖をついて、脇に置いたものをペラペラと。彼が昨日、商品の納品帰りにたまたま見つけた装飾品の紹介雑誌で、よその新商品や、富豪が上品な雰囲気をまといながら笑っている。

 それを眺める青年の目は、興味というよりかは、冷めたものに満ちていた。

 そもそも、彼の営む店のターゲットとは客層が異なるのだ。もともと下層の生活圏で生きていた彼にとっては、装飾品というのは自身の憧れを売れる形に落とし込んだものであり、富豪ではなく一般の人々に向けたものなのだ。

 ふと青年が視線をあげる。そこにはまっすぐな、大きい双眸。

 寝藁を尻に敷き、両翼を床につけて首をいっぱいにばした山飛竜。また視線が雑誌に戻す彼に、特に声こそかけないものの、じっと見つめる。

 パラ。のし。パラ。のし。

 めくる度に、足音が鳴る。

 のし。パラ。のし。パラ

 二人の距離がいよいよ縮まり、飛竜の影がベッドにさしかかる。すなわち、土竜の視界に割って入る。

 もう一度顔をあげれば、じっと覗き込んでいる彼女の姿がある。見つめあって、少し。

 雑誌を乱暴に閉じて退けると、彼は身体を起こして胡座をかく。すると彼女はぐいと距離を縮めて、鼻先を彼の懐に押し込む。

 強引な割り込みにも関わらず、彼は怒ることなく顎や首を撫ではじめた。グルグル喉を鳴らし始めた飛竜は、やがてまどろみ、落ちてしまう。

 こうなってしまっては、彼は立ち上がることも叶わない。諦めて後ろに倒れ、目を閉じる。


◆◆◆◆


 かまってアピール。

 かわいいですよね。かまえよ、撫でろよ、とじっと見上げてきて。

 市場のメンツだとシェーシャくらいしかいないんじゃないかなー?

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