[短編(市場)]幸せの味、されど変わる味
※暴力表現あり
油の跳ねる音。灼熱の鉄板の上で、あちちあちちと汗をかき続ける、次第に赤から、強いて言うなら薄い木の色に染まっていく、一枚の分厚い肉。
それを注文したのは、猫背の立脚類の竜。時折目だけをぎょろりと動かして、あたりの様子を伺っている。
別に、あんたの注文だし、誰も盗らないと思うんだけどねぇ。カウンターに座る小さな姿を、私はなんとなく、じっと眺めている。
こいつの名前はなんだっけか。腕が立つのは覚えているけど、なんていうんだっけ。生えてくる尻尾を自ら両断して、そこに刃物を埋め込んで振り回す酔狂なやつだけど、すんごい無口で、聞いた覚えもない。
義手になってから、とりあえず、アートナとリーアたちが逃げる手配を済ませて、洞窟に連れていったやつらに報酬を払ってる最中だ。それで、こいつは報酬に加えて、マスター特製のステーキを食べたいと言い出したんだ。
それ自体は別にかまわないさ。表向きはバーだしね。貴重なステーキまで出すと赤字だから、報酬減額なのは内緒なんだけど。
ちろりと舌を出し入れした彼が、動き出す。
どうにかナイフとフォークを掴み、肘を曲げながら一枚肉を押さえつけ、刃で切っていく。一度の切り終えると、そのままフォークを持ち上げて大口に運ぶ。
分厚いそれはまだ中まで火が通っていないようだった。半生の方が好みなのかあいつは。どうやらそうらしい。だらんと垂れていた半分の尻尾がピクピクと動いてる。よっぽど好きらしいね。
目を閉じて、もごもごとしている。あいつの舌は細いけど、分かるのかね。
やがて嚥下して、後味さえも味わうらしい竜は、先ほどと比べてゆっくりとナイフを押し付けていく。ほぼ同じ断面だが、今度はそれを転がした。
すると再びパチパチと油が跳ね始める。数秒だけ焼くと、ひっくり返して反対の断面も同様に。
あー、次は完全に焼くんだ。ふーん。
ほんとに幸せそうだね、こいつは。今回の報酬の三割も使って食いたいと思うものなのか。口は火傷するし、固くて噛みきれなくなったあれを、私は料理とは認めない。絶対に。
やがて最後の感動から上がった竜は、特に何も言わずにそこから立ち去った。支払いは私持ちだから、特に問題はない。
無口な横顔は、どこか色鮮やかになっているように見えた。あいつは、次はどこに行くんだろうねぇ。
◆◆◆◆
ステーキを食べました。ステーキといえば、市場のテレア編の、ヴィーク率いる者たちの一人に、ステーキ食べると宣言した彼がいることを思い出しましてね。
ハンバーグとかもそうですが、自分で焼いたりしますよね。どうしてそんな食べ方が広まったのか、起源が気になるところですね?
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