[短編(オリ)]偉業を成さぬ勇者の像

 ある町に立ち寄ったときのことだ。

 中央広場らしき場所で、群衆があった。遠目にそれを見つめていると、この先には青く錆びた像が、今まさにどかされようとしていた。

 中は空洞なのか、数人の男たちがゆっくりと横に倒して、台座から下ろしていく。すると、ありがとう、ありがとう、と別れを惜しむような声が聞こえてくる。

 近くにあった露店に立ち寄り、切らしていた道具を購入がてら、今しがた姿を消した像について尋ねてみる。

 いわく、この町出身の、初代勇者の像らしい。魔王に昏睡魔法をかけられた姫を救うべく、この町から王都に出向き、勇者として出立した者を象ったもの。その勇気を称えた王がそこに建てたもの。

 ではなぜ撤去するのか、と尋ねれば、その勇者はあるとき以降、消息不明になった。姫はいまだに眠りについたまま、ということは魔王は倒されていない。

 するとどうだろう。彼に触発されたのか、次々に勇者の称号を与えられた若者が名乗りをあげたのだ。それがここ数年の出来事。

 そしてつい先日、姫は目を覚まし、勇者は英雄となって王都に帰還する。そうなると何も成さなかった勇者よりも国を救った英雄の像を建てる方がよいのでは、と会議になったらしい。

 そのために古い勇者は英雄の身体の一部となって、またあそこに立たされる予定なのだという。

 なるほど。要は代替わりか。像があれば観光資源にもなる。古びた像よりも金ぴかの像の方が、今の未来を見据えようとする方針には合ってるのかもしれない。

 それにしても、だ。遠目にみた限り、あの初代の像、どこかで見たことのある面影だった。間違いなくどこかで会ったと思うが、それがいつの誰だったかが思い出せない。

 まぁ、旅には余計な詮索か。さて、宿を取るとしようか。


◆◆◆◆


 ネタとして「真の勇者の後日談」なんてものを思い付きましたが、それを書くのはいつになるやら……思い付いたらすぐに行動に移すべきですが、残念ながら中長編になりそうなので、諦めます。


 さて、像って、記念や祭事に立てられたりしますよね。では、この像が不要になったとき、どうするのか?

 多くは貴重な金属ですから、再利用されることでしょう。しかしそれは同時に、それがあったことを忘れさせることとなります。

 すなわち、先述のようなきっかけで立てられたものが撤去され、英雄の姿を尊ぶ。初めの勇者はいなかったものとして扱われ、歴史から姿を消す。

 そこに焦点を当ててみたいのですが、さて、いつ書けることやら。

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