[短編(市場)]ロッド

 今日も今日とて、市場から離れた荒れ地の洞窟では腕利きのつわものどもが集まっていた。

 狐の管理者が叫び、全員に岩製の硬貨を配布し、最後の参加者の背中を見送ったあと、息をつく彼に近づいたのは、立脚類のテレアである。

 軽く首をかしげ、腕を組んでいる。

「なぁ、テラー。あん中に、魔法使いはどんくらいおった?」

 普段なら歯牙にもかけないこと。参加者の人数を数えて、出ていく人数と照らし合わせるのが彼らの仕事であり、個人が何で争うのか、ということは、二人の気にすることではない。

「大体、十人でしたよ。気になることでも?」

 折り目正しい正装の姿は、再び正された。

「いや、なんでか分からんのやけど……なんで魔法使いは棒切れもたんのやろなぁ、思うて」

 指で自身の前腕を叩く彼女に、それこそテラーの目が丸くなる。

「何をおっしゃってるんですか。魔法は個人の才能と、陣があってこそ使えるもの。枝にそんなものを描くような奴がいたら、異端児ですよ」

 そうやんなぁ、と岩の目を細め、うなる。

「なんか、分からんのやけどな」

 バキバキと音を立て変形する右腕。

「こんな棒をな、魔法使いと言えば持っとるイメージがあるんよ。本なんか、あたしゃ読まないしねぇ」

 そこにできたのは、先端から根本にかけて細くなっていく棒。今はテレアの腕から生えていたが、ゴトリと地面に落下する。

「言うならば、杖、ですかね。市場の年寄りが支えに使っているものです。まぁ、何か忘れているだけでしょう」

 質量のあるそれをひょいと拾い上げたテラーは地面に衝いてみせる。するとテレアは彼に指示を出して、ひとつのポーズを取らせた。

「うん、なんか見覚えあるんやけどなぁ……」

 大きく足を広げて、杖を前方に。空いている手を大きく広げて、軽く仰ぐ、なんとも妙な姿だ。

 恥ずかしいです、とこぼしたものの、うんうんと考え込むドラゴンの耳には届いていないようだった。


◆◆◆◆


 杖って武器に分類されることが多いですが、市場では一切登場してませんね。武器と言えば刃物、魔法と言えば本といったところでしょうか。


 で、杖と言えば鈍器ですが、どうして杖というものを魔法のコントロールに使うようになったのでしょうか。指揮が目的なら指揮棒の方が軽いし、なんなら剣の柄でもいいわけですよね。

 世界樹の枝から切り出されたどうこうの設定なんてよくあるものですが、所詮は鈍器です。でも振り回すにしては取り回しが悪いし……やっぱ戦闘向きではないですよね。

 杖という概念があるにしても、それを武器に使おう、とは緊急事態のときしか考えられませんね。不思議ですよねぇ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る