[創作論]指導者と生徒
冷たい大粒の汗が、頬を伝う。同時に、きゅうと胸を締め付けられるような感覚。どうしたらいいのだろう。私は今、生来最大の危機に瀕している。
「どうされましたか? 用紙にご記入を」
いや、その用紙に書いてあることが読めないんだけど。はるばるど田舎、もとい、故郷から市場までやってきたけれど、こうしたら私の名前である、というのは覚えているけれど、どこに書いたらいいのかが分からない。
もしここで読めないなんてことがばれたら、ここで帰りの路銀を得ることなく門前払いを食らう羽目になる。
「あの、どちらに書けば?」
あー、やっちゃった。祈るしかない。知ってる文字と違うんだって言った方が、もしかしたらよかったかも。
すると受付は、ああ、と驚いた様子もなく、私の目の前にある紙に手を置いて、すっとカウンターの下に隠した。
やっぱ、だめだよね。字、読めないもん。ただ土まみれで生活し続けることなんて耐えられなくて、世界樹の市場で稼いで、楽をさせてあげるから、なんて見栄を張ったばっかりに。
「では、まずは言語教習からですね」
そう。もう帰るしかないのだ。野盗に襲われるかびくびくしながら、雑草をむしって、果物がないか探しながら。
「いるんですよ、無計画に登録しようとして、筆が止まる方」
親になんて言おう。いっそのこと、姿をくらませようか。その方が、心配をかけさせることなく、生活を送れるだろう。
「聞いてますか? ここで、働きたいんですよね?」
聞こえてます。もう帰りますから。働きたいけれど、もうダメなんでしょう?
「読み書きができなくとも紹介できる仕事はありますので、それで稼ぎながら、学んでいきましょう。もちろん、手数料は多めに発生しますが……聞いてます?」
そうだよね。手数料満額取るんだよね。ああ。
「ひとまず、教習生として登録しますよね? お名前は?」
はぁ、帰ろう。せめて、愚かな私の名前を聞いてください。
「では、お金もないでしょうから、部屋に案内させましょう」
受付の人は、近づいてきた別の人に付いていけというから、ついていく。あぁ、もうどうにでもなれ。
◆◆◆◆
彼女は周りの話が聞こえなくなるタイプなんでしょうね。
冒険者ギルドといえば、パーティ、クラス、冒険、クエストといった要素がありますが、では実力はあれど文字が読めない、なんて人がいたらどうするのでしょうか? あるいは、初心者に対してろくに指導することなく駆り出したりするのでしょうか?
そうなると、教養のある貴族しかり、簡単に命を賭けられる無鉄砲新人ばかりが増えてしまうことでしょうね。
なので教養の窓口を低くするために、ある程度の指導者が存在するはずなんですよね。
魔王討伐ではこのあたりが気になり、指導者ポジションの人物が出てきます。先輩後輩とは違う要素を見せられればいいなぁ、とかなんとか、思っています。
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