[短編(市場)]醒めた目に魅力はうつらない

 富裕層が軒を連ねる道の、ひとつふたつ裏側には、草原から引かれている水路がある。それはあちこちに張り巡らされているが、市場の数ヵ所には水浴び目的で設けられた貯水池がある。

 その一つはとある宝石店の裏にあり、朝から者の姿が絶えることはない。だがずっと居座っている者が二名。

 一人は水辺のそばで横になる山飛竜。もう一人はそれにもたれる土竜。早朝から水浴びを終えて以降、影落ちる昼間の今まで、じっと眠っているのである。

 彼らのことをよく知る近所の子供は、そろりそろりと近づき、長い尻尾をつつくという遊びに興じていたが、眠りの深い彼らはおもちゃになることはなく飽きられるのだった。

 日も暮れ始める頃に、ようやく山飛竜が目をひらく。目と頭だけをゆっくりと動かして、あたりの様子を探る。

 すっかり減ってしまった子供たち。静かな時間に浴びようと現れる貧困区の者が背を向けていて、彼女が見ていることに気づいてはいないようだった。

 そこから視線をずらすと、ある一点に注がれた。顎を上げ首をかしげ、ぺろりと唇を一周。それから数度まばたきをして、ついには身体にもたれる彼を尻尾でぺちぺちとはたき始める。。

「ギルー、そろそろ夜だよー」

 まだ気だるそうな青年が身体を起こすと、大あくびをひとつ。すると水浴びに興じていたが者が驚いたように振りかえる。だが当人は半目で彼女に答えるだけだ。

「あ、あぁ。やっぱ無茶な注文は、受けるもんじゃないな……」

 掛け声と共に立ち上がり、両腕を上げて背筋を伸ばす。つられて尻尾の付け根も持ち上がる。

「ねぇ、ギル、あれなんだと思う?」

 牙をガチガチと鳴らしながら問いかける飛竜が、自由になった片翼で、先ほど見つめていた場所を指す。

 うん、と首をまわして見つめた先には、一枚の紙。

 正しくは何かが描かれた紙が、壁に立て掛けられている。立脚類らしい者が何かを担ぎながら列を成しており、その後ろでは巨大な四脚類が無表情にそれをみつめているような。

「美術品だろ。贋作かもしれんが」

 おうむ返しに尋ねれば、

「金持ちの道楽だ。ほら、ドラゴンの国の城でみただろ? 大きい絵とか」

 と答えたのちに、彼は彼女に立ち上がるよう続ける。

「興味あるなら、一枚の買ってみるか? すぐに飽きるんだろうけどな」

 にやりとする青年の背中を、ぴしゃりと長い尻尾がうった。冗談だよ、と背中をさすって、微笑む彼は帰るぞ、とその場を後にする。

 飛竜は今一度、絵画を見てから、ぷいと後を追いかける。


◆◆◆◆


 あれ、1000行った。


 美術品って、ファンタジーにはなかなか出てこないですよね。現代ものならちょくちょくありますが。

 お金持ちの道楽として、出してみるのも一向かもしれませんね。

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