[短編(市場)]片翼の寓話
ある場所のお昼時、そこそこ混んでいる食堂の真ん中で一人、黙々と食事をしている立脚類の獣がいた。
鳥と呼ばれている体躯をおおうのは赤い羽毛。どこにいても目立つうえに、身に付けているのは郵送員の印の入った服。一度その姿を見れば、多くの者は覚えていることだろう。
その目の前の席につくのは、同じ郵送員の人間の男である。軽く挨拶する彼に、適当に返事をする。
「なんだい。用があるなら、早くしてよ」
だが続く言葉は、どこかトゲのあるものだった。視線もどこか険しく、食器の扱いもどこか荒々しい。
「いや、確認したいことがあって、声をかけたんだけど」
わずかに歪む笑みと共に、少し腰が引けている青年は続ける。
「片翼の鳥っていう童話、知ってる?」
目を閉じてくちばしから食器を引き抜く。
「ああ、私の村で口伝されてるやつだね。なんで知ってるかは気になるけど、どうでもいいわ」
続けなさい、と食器で指すと、男は口を空にしてから口を開く。
「いや、昔からそういう話が好きで探し回ってたりしてるんだ。もし他に何かあれば、教えて欲しいと思ってね」
興味のなさげな彼女はじっと彼を睨み付け、男は苦笑いを浮かべながら見返した。まだまだ混み続けるだろう空間のなかで、しばしの沈黙。
「片翼の鳥、懐かしいね。私が他に知ってるのは、多くはないよ。それでもいいなら、教えてあげる」
不意に緩んだ表情に、是非、と青年の顔が明るくなった。
あるとき、空の散歩中、翼を持ちながら地上を歩き続ける者がいた。当然気になったある子は、スィと飛んで尋ねた。
「どうして飛ばないの?」
その者は答えた。
「わたしは飛んだらいけないんだってさ。見てみなよ」
広げられた歩く者の右腕は、空を叩く翼は、中程までしかなかった。どうして、と子が問えば、
「なんでだろうか。わたしが飛ぶ度に、突風は起こるし、雷は落ちるし。飛べないように、父さんがやったんだ」
にこにこと微笑む彼女に、そんなのおかしいよ、と叫ぶのは道理であった。
「おかしいかな。わたしが飛ばなければ、みんな飛べるんだよ。君もね」
だがそんな主張は、太くなった足で村へと帰る背中から、すっと滑り落ちる。
◆◆◆◆
片翼の存在。天使とか、獣人とか、よくあるかと思います。
なんで片方を欠落させたのでしょう? 腕でも脚でもよかったやん。あ、生活に不便だから? 神様やっさしぃー。
単に中2的でかっこいいのはあるでしょうが、もっとこねくりまわせばネタが降りてきそうな予感。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます