[短編(オリ)]死したることをば語り継ぐ

 勇者一行が、この町に立ち寄った。

 大人たちは彼らの示した紙ペラ一枚を見や否や、血相を変えて彼らをもてなし始める。

 最高級の宿に無理やり空室を作り出し、そこにチェックインさせる。追い出されたのであろう数組の客はふざけるな、紙幣の束を片手に悪態づきながらどこかへと立ち去った。

 彼らが荷物をおいて出てきたかと思えば、町一番の商人のもとへ。それから武具防具、鍛冶、道具屋と転々として、ペラ一枚を見せて商品を受け取る。

 誰の目を通しても分かる、最高級品を手にして笑っている。嘲笑うようなものではなく、いかつい店主の顔もほころぶ、希望に満ちたもの。

 確かに勇者なのかも。

 それから彼らは解散して、好きなものを食べ、宿へと戻った。翌日、朝早くにこう言い残して、出立した。

 ご協力、ありがとうございます。必ず、平和を取り戻して見せます。


 それから数ヵ月して、ある知らせが届く。

 町の人々は、まるでそれを身内のことのように悲しんだ。せめて安らかな死を、とか、いつになったら勝つことができるんだ、とか。

 それはもう、ひどいものである。

 町の誰かが、寿命を全うしても、強盗に出くわし不運を被ったとしても、商人が帰路の途中で崖下に転落し川に飲まれたとしても、誰も、いや、ここまで多くの者は悲しまない。

 町中を探して、ようやく嘆きに暮れていない人を見つけた。石垣に腰かけて、のんびりと食事をしている人だ。

 勇者一行が死んでしまうと、どうしてみんな、こんなに悲しむんだろう、と尋ねた。すると悠々自適な人は教えてくれた。

 みんな、彼らを家族だなんて思ってないだろうね。思っているとしたら、単なる一筋の光、王様の勅命なんて関係なく、希望だった、とかじゃないかな。

 希望。この不自由なく暮らせる町に住んでいるのに?

 どうして勇者だからって、希望だなんてものを寄せたんだろう。首をかしげても答えはでないし、答えをくれた人はおいしそうに、食事を終えた。


◆◆◆◆


 訃報を耳にする度に、悲しみの声を取り上げる。だがそこに、私の悲しみはない。


 きっと、特定の人に夢中にならないから、こう思うんですよね。実際、一時期声優についてネットサーフィンをしたことがあるくらいで、アイドルとか、歌手のファンになったことは基本ありません。

 故に、人の密集するイベントに参加したのは、ある意味コミケとかコミティアが初めてだったのでは。

 では私がなぜそうなったのか、といえばゲーム人間だったから、でしょうか。勉強以外はゲームばっかりしてたのと、気が向けば妖魔のような話を書いていて。

 ずっと、自身ばかりを見つめていたせいかもしれませんね。

 親しい人が亡くなったら悲しめるのかなぁ、とか漠然と思います。いつか死ぬものですが、それを嘆けるかは、また別のお話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る