[創作論]途方もない虚構を抜かす

※自傷要素あり





 歯が取れた。

 左側の犬歯がだけがぽろりと取れた。

 それをもとの場所に納めてみても、安定せずにぽろり、ぽろりと外れるばかり。なおも諦めきれず、無理やり治そうとする。

 唇と舌で押さえつけてみる。安定したのはつかの間、内側からの力に負け、外れるばかり。カタカタと骨同士がぶつかり、歯特有の味がする。血は感じられない。

 指を入れて固定を試みる。だが部外者である者がここへ直れ、と指示したところで力の加減がわからない。なんとも言えない、例えるならすっぱい味がする。

 どうしてどうして、どうして。

 ただひたすらに、そこにあれ、と天井を眺めながら口内をいじくりまわした。


 はたと気がつく。サアァァという静かな音、温かい布団に、朝の空気。犬歯に舌で触れてみても、そこには使い慣れた骨がある。

 同じ天井を眺めて、ひと安心する。

 時計を見れば、まだ早い時間。寝返りをうって、体の力を抜く。


◆◆◆◆


 なんでか不定期にこんな夢を見るんですよねぇ。ほんとに同じような夢。

 というわけで、テーマは「見に覚えのない夢」です。朝起きたら歯が抜けていた経験なんてありませんし、どうして繰り返し視るのか。それが分かりません。


 で、以前、物語で出てくる夢といえば未来予知、透視、過去のトラウマなどに触れてきましたが、結局は何にも関係のない夢、というのもあり得ますよね。というより、夢ってそういうものです。

 そんなどうでもいい夢。いちいち描写するのもフラグ回収が必要だよなぁ、となりますが、些細な精神状態の変化を示すにはいい舞台になり得ます。

 例えばどこかでぼんやりと座り続けている夢。止まっているのか動いているのか分からない景色に、ある日突然、犬がてこてこと歩いていたらどうでしょうか? 犬に関する何かがあったのかもしれませんが、景色の時間が動き出している。意味をしていることはよく分からないが、歩き始めることができるんですね。

 いつも足を踏み外す夢を見ていたとして、周囲に何かが現れるようになればどうでしょうか。それらは手を伸ばしているのでしょうか、じっとこちらを見つめているのでしょうか。


 精神状態を暗示するにも便利な「夢」。色々と解明されたらつまらなくなるような気がしてなりませんが、そんな日はくるのでしょうか?

 もしきたのなら、私の見る犬歯の夢を説明してもらいたいものですね。

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