[短編(市場)]欠けたものを埋めるには
扉が開かれた。真っ暗だった空間に差し込む一筋の光はあっという間に広がり、室内を照らした。立脚類の好む大きなベッドが顕になる。
開かれた密室に踏み入るのは二つの影。先に進んでいた青の四脚類は恐る恐るベッドを覗き込めば、見えるのは彼に背を向け、柔らかそうな寝床には黒犬と黒猫。無防備にも手足を投げ出す犬の懐で、猫が丸まっているのだ。
一見すれば微笑ましい光景だが、伸ばされている犬の右前脚は他と異なり、金属でできていた。
おお、と目を輝かせながら見入る青竜に、後ろの橙の立脚類が彼のサンバイザを軽く叩きつつ、獣たちを見下ろした。
「ヴィーク、起きてる?」
紅竜の問いかけに、ぱちくりと開いた気だるそうな目。
「静かに寝ていたのに、邪魔するんじゃないよ」
起き上がることもなく横目に睨み付けた。だが客人たちの姿は背後にいる以上、視界に映ることはない。
「僕は今度にした方がいいって言ったんだけどね」
うるさい、と追加で叩かれた青竜はヴィークの脚をじっと見つめ、対する紅竜は謝罪して、続ける。
「しばらく表に出てきてないって聞いたから。レノも見かけないなとは思っていたけれど……」
そうだね。長い尻尾が揺れた。
「ちょっとしたいざこざがあってね、脚をなくしちまったんだよ。戻ってきてすぐに義手を用意させたけれど、どうにも動く気にならなくてね」
なおも視線は合わせない。
「で、用件はそれだけかい? 依頼なら外のやつに頼んどくれ」
そうするよ、と青が答えると、二人は出ていった。再び部屋は真っ暗に満たされる。
再び寝入ろうとする犬の視界には、鉄の脚がある。左前脚で触れてみれば、ただただ無機質に熱を奪う。
「やつらに心配される筋合いは、ないねぇ」
溜め息。そして、寝息。
◆◆◆◆
そういえば後日談では紅青以外あまり触れてませんよね。というわけでヴィークさんでした。
毛の長い、黒くてしゅっとした犬、かっこいいですよねぇ。ヴィークはかわいいよりかっこよくあって欲しいと私の頭は語っています。
で、裏社会の幹部である彼女はこれからどうするのでしょうか? 少なくとも引退をすることはない、と考えています。しかし外に出て活動することは極端に減りそうですよね。
傷病プランの業務体系とかあんのかな……とか考えますが、またネタが浮かんできたら外伝として書くとしましょうか。
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