[短編(オリ)]ConnectMyLife4

 もったりと目覚めた意識。体に血が巡ることを確認して起き上がる。いつもの部屋、のように見えるが、昨日改築して、わずかに広くなった。

 寝相でよく体をぶつけていたからだと思われる。嬉しい計らいである。

 開けられていた出入り口を認め、出てみると、おはよう、と声をかけてくれるいつもの声。おはよう、とこちらも返したつもりだが、鼻から空気が漏れるばかりで、言葉なんてものは出てこない。彼女のような声帯なんてものはないのだから。

 いつもの狭いリビング。あの子の姿はない。視線を雑誌に戻す彼女がソファで朝の時間を過ごしているだけだ。

 ソファの後ろに回り、首を伸ばして手元を覗き込んでみる。今、彼女は一つの投書欄をじっと見つめていて、不思議と気になって読んでみることにする。


天国にいる我が娘に

 重度の病に冒され、回復することなく、延命治療を繰り返した5年後、娘がこの世を去りました。あれから、10年が経ちました。

 幸いなことに、彼女の弟は健康そのもので、毎日を元気に過ごしています。きっと、娘が、健気に弟を守ってくれているのだと思います。

 夫も自殺病に敗れ、私たちは中央監視寮に入りましたが、病の兆候など欠片もありません。治療が候をそうしているのかは分かりません。でもそれ以上に、娘が必死に守ってくれている。そう思わずにはいられません。


 投書の半分まで読んで、止めた。ちくちくと痛み出す胸を抱えつつ、彼女の横顔を伺う。

 寂しそうな、今にも泣き出しそうな顔。視線は黙々と、上下しているばかりだ。

 彼女を励ますつもりで鼻先を頬を近づけた。どうしたの、と目元を光らせながら伸ばす手は柔らかく、温かく、懐かしい。引いていく痛みを追い出すかのように、尾が揺れてしまった。



 特に問題なし、という事務的な定期診察を終え、自室経由で開け放しの家に戻った。

 彼女たちの姿はなかった。

 買い物にでも出かけたのだろう。前回は三日前だったはず。台所には入れないため、冷蔵庫の実情を知ることはできないが、そんなところだろう。

 いっそのこと、リビングテーブルの下で昼寝と洒落込む。



 旅行にでも行っているのだろうか。だとしたら診察のときに一声あるはず。何もないから、なにも言わなかったのだろうと思う。

 静まり返る、人のいない家。家族のいない閉じた世界は、退屈すぎた。時計の数字が規則正しく動いていることだけが、生きていることの証明となるのだろうか。



 おそらく五日目。定期診察の呼び鈴が鳴らされ、重い足取りで彼らのもとへ赴く。

 黙々と採血や血色検査が行われ、耳に入らない結果も告げられる。だが立ち去ることはせず、彼女たちはどうしたのか、の答えを得られるまで粘る。

 散々待たせた挙げ句、採血用の枷をつけ直されて、スピーカーから告げられた。

「いいかい、暴れるなよ」

 念押し。頷く。

「あの親子は行方不明だ。捜索用のICチップも、ジャミングなのか、意味をなさない」

 え……。

「今のところ、あの親子だけだ。君は、落ち着いて、彼らの帰りを待っていなさい。分かるね?」



 どこ。どこにいるの。

 鼻をつく臭いに、覚えあるものが紛れていないか。

 どこだ。どこに隠れている。

 きっとまだ生きている。

 生きていて。

 どうか助けて、守って、パパ。

 ママ、声をあげて。

 わたしがそこにいくから。



 人間がいた。1、いや、2。

 大きい方が、小さい方を抱きながら、こちらを見ている。近づく度、遠ざかろうとして、壁に背中を押し付けている。

 人間が、いる。

 ママ……ママ? ママ……?


◆◆◆◆


 ConnectMyLife最終回。

 テーマは「関係性によって保たれていた理性」でした。以下で触れた物語を使用しました。


【[日記]私は語る(異形化編)】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889374154/episodes/1177354054894467873


 この先どうなったかは……ご想像にお任せします。

 改めてこの世界観の説明をしておきましょうか。


 自殺を「伝播しうる病の一種」であると定義した世界で、あらゆる国は、通称自殺病による犠牲者を抑え込もうと躍起になっていた。

 そして上記の作中に出てくる通称「彼女」は夫を自殺で亡くし、病の発症しうる家庭として、中央監視寮へと入ることになる。

 ここに入寮した場合、自殺病の実験へと参加を義務化される代わりに、必要最低限の生活は保証される。与えられる条件は家庭によって様々だ。

 母1人と子1人。彼女たちに課せられた条件は、1頭の生物との共同生活だった。


 はい、もう妄想が溢れますね。楽しそうですね。というか先述のところでかなりのネタバレじゃないですかやだー。


 さて、本題。

 関係性の薄まりによって理性がなくなっていく。つまり、人外さんの自己を認める力を失っていく過程。じわじわと言葉が現状を示すだけになり、語彙力が失われていく。

 そして理性を、関係性を保ってくれていた、相手と再会して、そこからどうするのか。あぁ、ニヤニヤが止まりませぬ……。


 描きたいなー。けどイベントが足りないな~。あー、あー。書ーきーたーいー。

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