[短編(市場)]うぃんたーいべんと
年中、白に塗りつぶされた地域がある。ある箇所を境に、雪が厚くなり世界を冷気に閉ざす。たまに陽の光が差すことはあるが、その熱はあまりにも弱く世界を溶かすには至らない。
屋根の傾斜の強い木造の家の立ち並ぶ町で、行く人々は全身を覆い隠しながら我が道を歩く。立ち止まってはいけない。動いているからこそ熱が氷を溶かすのだから。
ある立脚類が看板を掲げる家屋に入った。来客を知らせるベルに気づいた店員が新たな客に声をかけた。すると身に積もった雪を払いながら顔を出した獣は、カウンター席と、温かいスープと辛い料理を所望する。
店員は空いている席を指差して、注文内容を述べながら奥へと駆けていく。
客の姿は多い。その内訳の大半は家族連れらしく、一人席はがらがらだ。獣は茶と灰のけむくじゃらの頭を覗かせながら、そこへと座った。
「今日は一段と冷えるな。なんで今日に限って仕事がこっちなんだか」
カウンターごしに出される、湯気たつスープ。何をやるんだ、と店員、もとい店主が尋ねた。
「昨日こっちに護衛ついでに帰ってきて、昼の休憩が終わったら、クチナシ狩りだとよ。世界樹からの商人の接待付きでな」
それは災難だな、と笑う店主はグラスを取り出した。
「サービスは、仕事の後にしてくれよ。酔ってたら仕事にならない」
それもそうだな、と店主はにやりとしてスープを勧める。獣は両手で器を包み、口にした。透き通ったくすんだオレンジ色に、野菜の欠片が浮かんでいる液体に流れが生まれ、落ちていく。
「オルストレ、宿は決まってるのか?」
温められていく感覚に息をつく彼は、店主の問いにいいや、と答えた。
◆◆◆◆
寒い。そんなときにはスープとかグラタンとか、そんなものが合いますね。
さまーいべんと、のときと同様、市場には季節の概念がないので、雪の国出身のオルストレさんに出張していただきました。
いやー、寒いですね。冬と言えばクリスマスですが、一年という概念がないならばそんなものはあるはずもなく。お仕事の合間に温まる彼となりました。
ソシャゲではクリスマスイベントどうこうで聖夜が二週間ほど続くものですが、やはり作品には記念日や習慣を作り込んだ方が、こういったイベントを書きやすいんでしょうか。
しかし、記念日には祝うものと慶弔するものもありうることも考えると、ネタは尽きない、かも? あるいは、世界観の固執することに意固地になりうることも考えられますね。
しかし、一年とかの節目とか、陰暦陽歴、季節の概念から用意しないと記念日も作りづらいですね。しかし、記念日を作ることで色々と人は思い付くようになった、と考えると、作り込みをしたいと思えてくるこの頃です。
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