[短編(市場)]巷で話題のお菓子がやってきた

普段から、ギルは見慣れないものを買ってくることがままある。それは商売に必要な飾りから、紙、小道具、食べ物、よくわからないものまで。ただ、ラクリと違って本だけは買ってこない。

一度、彼女の部屋を窓越しに見せてもらったことがあるけど、本ばかりがある。何と書いてあるかは分からないけど、必要なものなんだと思う。

私が家の前の水場で遊び終えて帰宅したところ、ギルが既に帰ってきていて机に向かっている。いつものように明かりも最小限に、ガリガリガリと慣れた物音。大きな音を立てないようにしながら、彼の隣に座り込む。

すると、ふぅと大きく息をついて椅子にもたれた。同時に、私に気がついたのか、おかえり、と彼は微笑んだ。

ただいま、と答えて、首を伸ばしてみる。少し気だるそうな彼は目を丸くして腕を伸ばして後頭部に触れてきた。

「シェーシャ、腹、減ってるか?」

引っ掻くような指使いにくすぐったさを覚えながら、うん、と答える。するともう片方の手を机の下へ伸ばした。

「見慣れない菓子があったから、買ってきた」

取り出されたのは爪くらいの太さの細長い筒に、雑草のように映えている固い棒状の何か。トレムがおやつと称して口にしていた塩気のあるスティックとも似ているが、これには黒いような茶色いようなものがコーティングされている。

「あまり腹は膨れないだろうが、間食にはいいだろ。いるか?」

差し出された菓子を一本、口にした。舌で転がすだけでポキポキと軽快な音を立てて折れてしまう。不思議な甘さは、しかしあっという間に消えてしまう。

ギルも一つつまんで、口にした。半分ぐらいで折って、固い表情で顎を動かして飲み込んだ。

「焼き菓子か」

お互いにもう一本。

「甘いね」

あぁ、とまた一本。

そえしているうちに、いつの間にかギルの手が止まっていた。一本の先を口に咥え、筒を持ちながらじっと作業台を見つめている。

何を考えているのか分からなかったが、私はにやりとする。

「ねぇ、ギル。これ見てよ」

どうした、とそのままこちらを向こうとした瞬間、私はお菓子の反対側を咥えた。

一本の橋を挟んで、視線がぶつかる。きょとんとしている彼をよそに、お菓子の先端をかじる。

空色の目が泳ぎ始める。さらに私は食べ進める。

もともと短かった距離があっという間に縮み、ぺろり。たった一本のお菓子はなくなった。


◆◆◆◆


○ッキーゲーム!動揺した方の負け!

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