[短編(市場)]彼女はいつも
昼間にはひんやりと暗くなる場所から逃れた、樹海の中の小屋には太陽のぽかぽかとした日差しが差し込んでいる。
にも関わらず、照らされているのは太い、朱色の鱗に覆われた尻尾だけだ。四角形が音もなく移動するたび、鞭には短すぎるそれをスススとわずかに動かす。
紅竜は直射日光を避けつつ、足を投げ出すように床に座っている。だが人間のように柔らかくない膝は山のてっぺんを描き、踵から足先も天井を向いている。
本を読むには十分な明るさのもと、ただ黙ってページを繰る。たまに真紅の瞳がわずかに上下する。
外から時折、わすがな何かの音が聞こえるだけで、時間が過ぎていく。
この部屋の中あるものといえば、丸太を切り出した机、一箇所に雑然と敷かれている藁、天井から吊るされている、役割を果たしていない明かり。そして、壁には本棚がいくつか置かれている。いずれも、本が詰まっており、中には取り出すことも難しいのでは、と思えるようなものもある。
棚を除けば、部屋自体はきれいに整頓されている、と見ていいだろう。とはいっても、何もないのだが。
彼女はいつも、ここにいるときは本ばかりを読んでいる。小説に、魔法の教本。後者のときは魔法の練習も織り交ぜる。
それ以外は、外を眺めているか、寝藁の上で眠るか。
やがて一冊の本が閉じられた。次に手に取られた本は図柄の豊富な教本だ。
「魔法の才能があるやつが、うらやましいわね」
一言呟いた彼女は右手を開いて、何度か握っては、開いた。
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