第22話 身を守る為に

 ある程度の体力が付いてきたハルトは、頑丈で大きめの盾を持たされた。

 この盾は、外から見ると全身スーツと同じ迷彩が施されている。

 内側から見てみると、端の部分だけ色が濃く、薄青い色越しに外側が見える。

 あまりの透明度に、ある程度の重量があるにも関わらず、何も持って無い様な気がしてハルトの不安感が増していく。

 盾の材質は樹脂の様だった。

 ハルトはこの盾を持って防御の訓練をすることになった。


 シオンと相対するハルトは呟く。

「見え過ぎだし怖過ぎるわ。

 こんなの。」

 ハルトの準備が済んだと見てとったシオンは、訓練を始めるべく声を掛ける。

「初めは軽く行きますね。

 ハルトさん。」


 シオンは、その言葉通り軽く攻撃してくれるのだが、盾の透明度が高過ぎて、ハルトは受け止められるのか不安で仕方がない。

 槍を持って相対した時よりも、シオンとの物理的な距離が、自然と近くなる。

 シオンの顔を近距離でまじまじと見てしまい、綺麗な顔をしているなあとボンヤリ考えていたら、盾に衝撃が来た。

「うわっ。

 びっくりした。」

(って、何を見とれてるんだ俺は。

 思春期かよ。)

 シオンは、ハルトの挙動を気にせず、打ち込む。

 続けて2、3回の打撃を受けただけなのに、ハルトの手は汗でびっしょりになっていた。

「ちょ、ちょっと待って。

 近すぎる。」

「慣れて下さい。ハルトさん。

 その盾はとても頑丈に出来ているので安全ですし、訓練用のこの剣では、当たっても少々の痛みがある程度ですよ。」

「うぐ。

 分かった。」


 シオンに指摘されたハルトは反省し、盾をしっかり持ち、構え直した。

 シオンは、訓練の途中で良く見受けられる、ハルトの切り替えの早さに感心していた。

(ハルトさんは、指導をすると直ぐに修正しますね。)

 シオンの中でハルトの印象が少し良くなった。

 そのことには、シオン本人ですら気が付いていなかった。

 今のシオンにとってハルトは、出来の悪い弟子が自分の教えにより成長していく、というものだった。



 訓練は日を追うごとに激しさを増していく。


 シオンの剣による攻撃を、盾で全て受けていたハルトは、激しい攻撃を受け、段々と追い込まれていき、地面に膝を付いて亀のような体制でうずくまる様になってしまう。


 シオンが、訓練用の剣でハルトの背中をツンツンと突きながら言う

「ハルトさん。

 そんな体制では、攻撃され放題ですよ。」


 ある時は

「全てを受け止める必要は無いのです。

 避けられる攻撃を、しっかり見極めて下さい。」


 また、ある時は

「ハルトさん。

 ただ、防御するだけではなく、衝撃を受け流す様にしたり、攻撃を受ける前に弾く様にして下さい。」


 シオンが付きっきりで熱心に教えてくれるので、ハルトは、徐々に盾の扱い方に慣れていく。

 ミネルバは、シオンが心配なのかやきもきした表情で、少し離れた場所から2人の訓練を見守っていた。


 日中はシオンの指導の元、走って、素振り、盾の訓練という、このところのお決まりの内容で過ぎていく。


 夜は、グリフも加えてシオンやミネルバ達と、監視という名目のおしゃべりをして日々を過ごしていた。





 以下は只の設定なので読み飛ばしても大丈夫です。


 ドーム内の暦について触れておきます。

 暦は1年の区切りはあるが、月の区切りはありません。

 惑星ガダの公転周期に依り、310日間を1年としています。

 自転周期もありますが、ドーム内の人は、時間や日にちを気にせずに暮らしています。

 朝の内に起きて、割り当てられた作業をして、お腹が空いたら適宜食事をします。

 疲れたら休憩を取ります。

 ドーム内では全員が、この様なサイクルで動いています。

 各自の1日の作業量はノルマが決まっており、それを終えれば、自由時間となります。

 作業を続けても良いし、他のことをしていても良いです。(ドーム内に娯楽はありません。)

 金銭自体がないので、賃金もありません。

 新しい製品が開発されたら、希望者には平等に支給されます。


 母星シオンでは時間の区別がありましたが、ドームのある惑星ガダでは秒や分、時間の区分を必要としていないので、現在では失われています。


 グリフから、この話しを聞いたハルトは思った。

(コレといった変化が無く、脅威も無い。

 ドーム内で暮らす人達は、緩やかに衰退しているのかも知れない。

 ただただ生活しているだけの様だ。

 生活に張りが無く、何となく停滞している様に感じるな。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る